月例三三独演「黄金餅」、そして一之輔・宮治ふたり会
「月例三三独演」に行きました。「居残り佐平次」と「黄金餅」の二席。開口一番は春風亭朝枝さんで「普段の袴」だった。柳家三三師匠のこの月例の勉強会は二ツ目時代から通っていたのだが、コロナ禍によって後援会組織も解散してしまったこともあり、しばらく足が遠のいていた。今年は毎月ネタ卸しをするということなので、毎月通おうと思っている。
チラシに、三三師匠はこのように書いている。
この十年ほどは、過去に手がけたネタを磨きなおす作業に比重を置いてきました。芸歴30年の区切りを越えた今、これまでの経験と初心にかえる気持ちを合わせて、怒涛のネタおろしに挑みます。まだまだこんなにやりたい噺があったんだなーと、嬉しくてしかたないです。
①黄金餅②阿武松③つる④一人酒盛⑤両泥⑥心眼⑦盃の殿様⑧お藤松五郎⑨高田馬場⑩ほうじの茶⑪石返し⑫御慶
「黄金餅」、ネタ卸し。人間の金への執着を見る。守銭奴。願人坊主の西念が、死ぬ間際でもあんころ餅に貯めこんだ一分金、二分金を包んで飲み込む。苦しくても無理やり詰め込む。金兵衛が「吐き出せ」と言っても意地でも吐かない。金に気が残って死ねないというのはこういうことか…。
死んでしまった西念の腹の中の金を自分のものにしようとする金兵衛もまた強欲だ。下谷山崎町から麻布の木蓮寺まで、長屋の連中と菜漬けの樽で死骸を運び、貧乏弔いを済ませた後は、他の連中には「仏の遺言だ」と言って帰してしまい、自分だけが樽を背負って焼き場へ運ぶ。「生まれたからには良い思いをしたいんだ。金があればそれができる。天婦羅そばがどんなに美味しいものなのか食べてみたい。芝居がどれほど面白いものなのか観てみたい…」。貧民窟から抜け出して、良い暮らしをしてみたい。人間の欲なんて、今も昔も変わらない。
焼き場では「腹のところだけナマ焼けにしてくれ」と無茶苦茶な注文をして、焼き上がった死骸を鯵切り庖丁を使って一分金、二分金だけを拾いあげる。骨壺なんかいらない。他人には触らせず、アッチ!アチチ!と焼き立ての死骸を漁る姿は狂気の世界だ。金兵衛はこの金を元手に餅屋を開業したというのだから、あんころ餅に包まれた金だったことがあながち関係しているのかもしれない。
配信で「一宮入魂!!~春風亭一之輔・桂宮治ふたり会」を観ました。
オープニングトーク 一之輔・宮治/「金明竹」金原亭駒平/「新聞記事」春風亭一之輔/「死神」桂宮治/中入り/「手水廻し」桂宮治/「子別れ」春風亭一之輔
宮治師匠の「死神」。死神を消す呪文を教わり、医者になった男は、金に目がくらんで、貧乏人は助けずに、裕福な人間ばかり助けていた。その上、女房と子どもは追い出して、芸者衆と遊び呆け、いい気になっていた。慢心というのだろうか。「実るほど頭が下がる稲穂かな」でいなきゃいけない。だから、そのうちに頼まれるのは枕元に死神がいる患者ばかりになってしまったのではないか。運を使い果たしてしまったのではないか。宮治師匠の噺を聴いていて、そんなことを思った。
そして、萬屋の一件。やっぱり患者の枕元に死神はいる。男は千両という大金に目がくらんで、死神を枕元から足元に移動させるという反則技を使ってしまう。これが許されるわけがない。死神と最初に出会ったときには「まだまだ生きる」十分な寿命があったのに、それを自ら短くしてしまった。最後に燃えさしの蝋燭に火がついても、結局男は死ぬ運命だったのだ…。倫理に反することは決して許されないという教訓がそこにあるのだと思った。
一之輔師匠の「子別れ」。熊さんが3年ぶりに亀吉と再会したとき、やっぱり気になるのは元女房と息子の生活だ。「可愛がってくれるか?新しいお父っつぁんは」という質問には、三行半を渡してしまった罪の意識があるからだろう。
おっかさんは針仕事、亀吉は近所のお使いをして小遣いを貰って、何とか細々と暮らしている。近所のおばさんから「ご亭主を貰ったら?」と言われても「亭主は先の飲んだくれでこりごりです」と答えている元女房だが、本当は熊さんのことを完全に恨んでいるわけではない。亀吉にこう言っているという。「お父っつぁんは本当は良い人なの。だけどお酒のせいで人間が馬鹿になっちゃったの。恨むなら、お酒を恨みなさい」。
そんな熊さんが今では酒をやめて、一生懸命働いていると聞いて、亀吉は匂いを嗅ぐ。「本当だ。お酒臭くない。やればできるんだ。なんであのときにそれができなかったんだ。今さら遅いよ」。小遣いを50銭も貰った亀吉は「人間というのは苦労すると丸くなると大家さんが言ってたよ」。真理だけに、耳が痛かったろう。
亀吉の額の傷。斎藤さんの坊ちゃんとチャンバラごっこして、傷つけられた。おっかさんは「斎藤さんからはお仕事やおさがりを貰っている。痛いだろうけど我慢しておくれ。こんなときに飲んだくれでもいてくれたら、案山子の代わりになったのに」。熊さんはこれを聞いて泣いてしまう。「みんな、お父っつぁんがいけないんだ。勘弁しておくれ」。
お小遣いの50銭も、明日鰻屋でご馳走になることも、お父っつぁんと会ったことを含めて、おっかさんには内緒にするという“男と男の約束”だったが…。亀吉が「知らないおじさんから貰った」50銭を、母親が「もしやさもしい了見でもおこしたのではないか」と心配するのも判るような気がする。最終的に「お父っつぁんから貰った」ことが判り、安心したときのおっかさんの顔が良い。
翌日の鰻屋の二階。亀吉が「三人でまた暮らそうよ。学校の先生が両親揃って健やかに育ててもらっているのだから恩返しをするのですよと言っていた。近くにいないと恩返しもできないよ」と言うのが泣かせる。元女房も「母子二人で辛かった。もう二度とこんな思いをするのは御免です」と言いながらも、和解する様子に親子そして夫婦の情愛を感じることができた。