桃月庵白酒一門会「富久」

下北沢シアター711で「桃月庵白酒一門会」を観ました。一番弟子のこはくさん、二番弟子の白浪さんの成長著しく、目を見張った。白酒師匠が「桃太郎」を演じると、こんなに面白いのか!という爆笑編になったのにも感嘆した。

「子ほめ」桃月庵ぼんぼり/「長屋の算術」桃月庵黒酒/「口入屋」桃月庵白浪/「桃太郎」桃月庵白酒/中入り/「よかちょろ」桃月庵こはく/「富久」桃月庵白酒

白酒師匠の「富久」。幇間・久蔵の喜怒哀楽が伝わる。日本橋穀町の大事な旦那をしくじったが、その穀町が火事と知らされて、浅草三軒町から火事見舞いに駆け付け、詫びが叶い、出入りを許されたときの嬉しさといったらないだろう。

火事見舞い客の帳面付けを頼まれ、喜んで引き受けたけれど…御本家から御重と酒を冷やで1本、燗で1本届けられると気もそぞろになる久蔵に人間っぽさを感じる。旦那にいかがいたしましょうか?と何度も訊き、「そこへ置いておきなさい」と言われても、飲みたくて仕方がない。喉が渇きました、温まるものが飲みたい…、旦那も最後は諦めて、「お前は酒でしくじったんだぞ。それを忘れるな」と飲酒を許すが…。

一緒に帳面付けをしている徳どんにも酒を勧めるが断られ、仕方なく独りで徳どんに話しかけながら飲む台詞に久蔵の可愛さと弱さが表れている。「これぐらいの酒で酔う男じゃない…嬉しいんだよ。あれだけのしくじりをしたのに、旦那は間髪を入れずに『よく来てくれた!』。何かお手伝いをしようとすると、『お前は芸人なんだから、怪我しちゃいけない』。飲まなきゃ、やってられないよ」。

久蔵が酔って寝静まったところで、また半鐘の音。火元は浅草三軒町あたりだ。久蔵を起こしてやれ!そして自宅へ向かう久蔵に「もしものことがあったら、ウチに来てくれよ」と優しい言葉を掛けるのを忘れない旦那はよく出来た人物だと思う。

実際、久蔵の家は丸焼けだった。憔悴して戻って来た久蔵に「心配することはない。気を落とすな」と言って、三度三度のモノを食べさせ、小遣いまでやるという優しい旦那だ。だが、久蔵だって分別というものがある。いつまでも甘えているわけにはいかない。仕事に復帰して、自立したい。先立つものが欲しい…。

そんなとき、火事で焼き出される前に古河の旦那から買った椙森神社の富くじを思い出す。抽選会場では一番くじが読み上げられている。「鶴の千五百番~!」。「あたた、あた、当たった!千両!」。だが、肝心の札がない。大神宮様の御宮にのせておいたまま、火事で焼いてしまったのだ。ああ、なんてついてないんだ!

落胆している久蔵に、鳶頭が声を掛ける。「さすがは久蔵、芸人だな」。訊くと御宮は運び出したから、所帯を持ったら取りに来いという。崖から突き落とされた久蔵が這い上がるように、鳶頭の首っ玉に食らいつく!「大神宮様の御宮!」。御宮の奥には富くじの札、鶴の千五百番があった!狂喜乱舞する久蔵。鳶頭も事情を聞き、「そりゃあ、人格が破綻するはずだ」。暮れに相応しいめでたい噺で締めくくることができた。ありがとうございます。