柳家さん喬・柳家権太楼二人会

新宿末廣亭余一会「柳家さん喬・柳家権太楼二人会」に行きました。僕は2016年以来、実に7年ぶりに伺った。

「真田小僧」柳家小きち/「千早ふる」柳家小太郎/「新聞記事」柳家福多楼/「幽霊そば」柳家権太楼/「男の花道」柳家さん喬/中入り/対談 さん喬・権太楼/「ちりとてちん」柳家さん喬/民謡 立花家あまね/「睨み返し」柳家権太楼

今や暮れの風物詩になっているこの二人会は1988年にスタートした。だから、今年で35年になる。現在、さん喬師匠が75歳、権太楼師匠が76歳。お二人が40歳になったばかりの頃から続いている。凄いものだ。

権太楼師匠が「落語年齢というのがあって、80歳だと思っている。だから、あと4年は頑張りたい」とおっしゃっていたが、いやいや、少なく見積もっても、あと10年はいけるのではないか。そんなパワーをお二人の高座からは感じる。

権太楼師匠が「さん喬さんは向上心がある。落語に対する貪欲さがすごい」と評価して、「私も負けたくない気持ちがあるんだけど」と続けた。さん喬師匠が「さっき、権太楼さんが『蹴られるのが嫌だ』と言っていたじゃないですか。その気持ちが続く限り、大丈夫ですよ」と褒めた。

権太楼師匠が「何のために寄席に出ているか…ドーンと受けたいのよ。それで(後輩たちに)その背中を見せたいの。喬太郎や三三や一之輔に対して。前に出られるようなら、出て来い!みたいな。彼らはもう前に出ているけどね」。あと15年続けて、この二人会が50周年のときのお二人の高座を是非観てみたいと思った。

さん喬師匠の「男の花道」、今月頭にネタ卸ししたばかりのネタだ。失明することは、役者の命を絶たれること…半井源太郎は決死の思いで歌右衛門の風眼の手術をおこなう。四日が経ち、包帯を解くとき、歌右衛門は数を数えて、ゆっくりと目を開く。「目えまする!」。その喜びは何物にも代え難いものだったろう。

御礼として百両を半井に渡そうとするが、「こんなものをほしくて手術したのではありません。歌右衛門という芸を途絶えさせたくないという思いからです」という台詞が胸を打つ。歌右衛門も「何と潔白な方だ。どうぞお許しください。必ずご恩はお返しします。何かあれば、手紙一本で命を懸けて火の中、水の中へ飛び込みます」。堅い約束と厚い友情が結ばれた瞬間だ。

そして、向島上半での土方縫殿助の横暴。半井に踊れと命じるも、半井は医師としてのプライドがあった。「生まれながらの無骨者でございます。迷惑でございます。然るべき方をお呼びになって踊って頂いたほうが良いのではないでしょうか」。これにカチンときた土方は「誰だ?今の江戸で踊り手とあれば、坂東三津五郎か、中村歌右衛門か?」と挑発。半井は思わず「懐かしいお名前…」と言ってしまった。これを土方は聞き逃さない。「お前は歌右衛門を呼べるのか?呼べ!わしが二度三度声がけをしても来なかった歌右衛門を呼んでみろ!もしここに歌右衛門が来れば、石が流れて木の葉が沈むぞ」。

半井からの手紙に、中村座で熊谷陣屋の芝居を上演中だった歌右衛門は「ここで3年前の恩を返さなければ」と思う。これぞ男の友情だ。座元を説き伏せ、舞台で観客に事情を説明して一世一代のお願いをすると、客は涙し、口々に「行ってやれ!」。向島上半では半井が約束の刻限を迎え、切腹しようとしていたその時、「暫く、お待ち下さりませ」と歌右衛門の声。「半井に成り代わりまして、一差し舞わさせていただきます」。幇間医者たちの前で息を飲むような見事な舞いを見せ、土方の言葉を遮って、歌右衛門と半井は観客が待つ中村座へ。真っ暗な中、蝋燭を200~300本立てて、熊谷陣屋の芝居が始まり、その出来事は江戸中の評判になったという…。男と男の友情物語に感極まる。

権太楼師匠の「睨み返し」。前半の八五郎と薪屋の攻防戦も良い。借金が溜まっている弱みなど見せずに、どんどん強気で攻める八五郎がすごい。「そこから一歩も動くなよ!」「勘定をもらったら、もらったとハッキリ言え!」「勘定をもらったら、愛想よくするものだろう!」「受け取りをまだもらっていない」。借金を取りに来た薪屋を追い返しただけでなく、8円50銭の領収証に印まで押させてしまう八五郎の図々しさが痛快だ。

そして、後半の借金の言い分け屋。1時間2円。全く喋らないで怖い顔をしている言い訳屋に、米屋の小僧は最後は泣き出しそうになって、帰ってしまう。次の魚屋なんて、「こんにちは!…サヨナラ!」。顔を見ただけで、逃げだしてしまう。早い!

最後の斎藤氏から依頼された者は、ちょっと手強そうで、「人を一人や二人殺しても何ともない」と威勢が良かったけど、言い分け屋の睨みにノックアウトされてスゴスゴと帰ってしまった。あの言い訳屋の怖い顔は、権太楼師匠だからこその表情で、なかなか真似は出来ない高座だと思う。今回は、さん喬師匠がこのネタをリクエストしたのだそうだ。暮れに相応しい良いモノを観た。