渋谷らくご 創作大賞、そして柳家さん花「明烏」

配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ 創作大賞2023」を観ました。今年5回開催された創作落語ネタ卸しの会「しゃべっちゃいなよ」で演じられた作品の中から、優秀5作品がエントリーされ、改めて決勝戦という形で大賞を決める会だ。激戦の末、柳亭信楽さんの「腰痛」が大賞に選ばれた。おめでとうございます!

柳家花ごめ「インタビューウィズマーメイド」

人間のインタビューに応じて、人魚に対する誤解を解きたいと欲する人魚のアリタサチコさんの存在が面白い。人魚は哺乳類と魚類のアイノコで、上半身の人間部分で税理士をしているが、下半身はほぼ鮭…、ゆえに海の中の食物連鎖の中に組み込まれている。ファンタジーな幻想を持っているかもしれないが、それは夢の世界であり、人魚の肉を食べると不老不死になるという伝説もデマであり、迷惑していると。逆に人魚が人間に対して持っている誤解も…と続き、人間社会の風刺にもなっている。秀作だ。

柳亭信楽「腰痛」

高校生のニジカ、ワタル、ナラハシ、駆け付けた救急隊員たち、ぎっくり腰侍ことギクリダコシタロウ、そしてゾンビに怪獣…。次々と登場するキャラクターの魂が複雑に入れ替わったり、ぎっくり腰が伝染したりする面白さ。だが、単なるパニック落語ではなく、ニジカをめぐるワタルとナラハシの恋愛三角関係を描く青春ドラマのようでもあり、ギクリダコシタロウが怪獣に乗り移ってパワーアップする怪獣映画のようでもあり…。笑いを次々と積み重ねていくことで、相乗効果が生まれていく作品にセンスを感じた。

柳家やなぎ「Barの奥」

バーに訪れた不死身の村雨とバーテンダーに身をやつした流浪の科学者桐島の会話かと思っていたら、そのバーテンダーは雇われて2か月の高校1年生のバイトだった。リンゴジュース、マンゴージュース、ミルクと変わるシークレットコードに何某かの暗殺の匂いを感じる。注文するソルティドッグ、ニコラスカ、マッカランは青酸カリもしくはトリカブトが仕込まれていて…。問題はいくつもの未解決を残して終わるが、終始ハードボイルドの作風で彩った挑戦的な新作に拍手したい。

立川笑二「すきなひと」

好きになった“彼女”の部屋に自らの存在を消して勝手に住み込んでいる究極のストーカーが主人公だ。シマブクロアヤカに密かにGPSを仕込み、見つかったらお終いというスリルを楽しみながら、ねじ曲がった恋愛行為を続けている主人公の気持ち悪さが肝であり、そこが面白い。そして、幼なじみのウエキがシマブクロアヤカにストーカーされているという多重構造。しかも、シマブクロアヤカの方が「自分が好きな人が不幸になることを歓ぶ」という悪質なストーカーだったという…。笑二さんの作品にはいつも人間の闇が潜んでいて、ゾクゾクする。

春風一刀「恋する惑星」

付き合って何年も経っていて、結婚を考えてもおかしくない男女の会話の妙だけで構成している実験作だと思った。誕生日に銀座の三ツ星イタリアンで食事したいという願望にサイゼリヤで応え、プレゼントは年末ジャンボ宝くじ、ゼクシィを買って来た彼女に驚愕し、彼女が参加したという合コンの話に興味津々となり…。合コンで知り合った男は伊藤忠勤めで、書道展を観に行って、その後は蟹を食べたとか、会話の一部始終をディテールの面白さで聴かせている。今後もこの路線で新たな新作を創ってほしい。

上野鈴本演芸場十二月上席九日目夜の部に行きました。今席は主任を柳家さん花師匠が勤める興行だ。X(旧Twitter)で検索すると、きょうまでに「百川」「らくだ」「井戸の茶碗」「水屋の富」が掛けられていることまでは調べることができたが、他の日の演目は不明。きょうは「明烏」が掛かった。

「転失気」柳亭市助/「たらちね」柳家小はだ/太神楽 翁家和助/「のめる」柳亭左龍/「権助提灯」古今亭文菊/粋曲 柳家小春/「死ぬなら今」林家たけ平/「初天神」隅田川馬石/中入り/奇術 ダーク広和/「疝気の虫」柳家㐂三郎/音楽 のだゆき/「明烏」柳家さん花

さん花師匠の「明烏」。時次郎、十九歳。祭礼で子ども衆が叩いていた太鼓を見て、お兄ちゃんにも叩かせておくれよと頼み、「うまいね!」と子ども衆が喜ぶので夢中になって叩いていたら、手の皮が剥けちゃった。これでは親父が心配するはずだ。

源兵衛が先行して、茶屋の女将のところに行くと、女将が「もう来ないでって、言ったでしょう!帰って!」と煙たがられ、太助が後から来ると言うと、「あの人はもっと嫌!」と嫌われるところ。なるほど、町内の札付きの悪だ。田所町の日向屋半兵衛のところの若旦那を連れて来たと言ったら、通してくれたけれども。

引付けに通された時次郎が、花魁が通るのを見つけ、ここがお稲荷様じゃなくて吉原だと判ると、「私を地獄に連れて行くんですか!」と言って、ウェーンと泣き喚くところ、太助が「皆はここが極楽だと言っていますよ」。それでも、お座敷で畳にのの字を書いて泣いている時次郎を部屋に運ぼうとするおばさんに向かって、時次郎は「あなたは私の母よりも年上ですね。目尻の皺で判ります。こんなことをして恥ずかしくないんですか?」。

翌朝。浦里花魁に世話になった時次郎のいる次の間付きの部屋に入ってきた源兵衛と太助に対し、「結構なお籠りでした」と答える時次郎に、源兵衛は「大人の階段、昇っているよ!」。甘納豆を頬張った太助が激しい食い方で威嚇しているのも可笑しかった。