古典こもり 瀧川鯉昇・柳家喬太郎二人会

「古典こもり~瀧川鯉昇・柳家喬太郎二人会」に行きました。鯉昇師匠が「二番煎じ」と「犬の目」、喬太郎師匠が「品川心中」と「強情灸」。開口一番は柳亭市助さんで「たらちね」だった。

喬太郎師匠の「品川心中」。まず、女郎の見栄。城木屋で板頭を張っているお染だが、寄る年波には勝てなくて、最近はお茶を挽くことも多くなる。当然、紋日に移り替えする費用を用意することが出来ず、若い子たちに馬鹿にされたくない。そこで男と心中して浮名を流せば面目も立つと発想する安直が、いかにも落語だが、もしかしたら本当に昔はそういう女郎がいたのかもしれない。兎に角、廓は男にとってもそうだが、女にとっても見栄の場所なんだなあと思う。

次に、バカ金こと貸本屋の金造の軽薄。お染に「一緒に死んでくれないか」と相談され、“夫婦の約束”をした仲と信じ込み、ホイホイと心中を承知してしまうのは、性格が素直というのを通り越して、頭が少し足りない。一晩コッテリといい思いをさせてくれた翌日、匕首に白装束の準備をして、兄貴分のところに暇乞いしてしまうのだから、能天気にも程があるなあ。

そして、お染の掌返し。金造と海に身投げしようと桟橋まで行って、金造を突き落としたところで、若い衆が追いかけてきて「流山のお大尽が50両持ってきた」。これであっさり、お染は「だったら死なない」。海の底にいる金造に向かって、「お金ができたの。もう死ぬ必要がなくなったの。もう少し後から行くから待っていておくれ。失礼!」。こんな失礼な話はない。品川の海が遠浅で良かった。

金造が博奕をしている兄貴分のところに行って、手入れが入ったと勘違いして皆が大騒ぎする笑いで終わったけど、事情を話して仲間でお染に仕返しする後半も機会があったら聴きたい。

鯉昇師匠の「二番煎じ」。夜廻りのところは割合あっさり済ませて、番小屋へ戻る。一の組は月番さん、黒川先生、宗助さん、辰っつぁん、三河屋さんの5人。

黒川先生の娘が「風邪をひくといけないから」と持たせた瓢に入った酒。土瓶に入った煎じ薬に化けて、「身体の中から温まりましょう」と皆の意見が一致して、宗助さんが背中に鍋を背負って持ってきた猪肉、味噌、葱の猪鍋セットで盛り上がる。

たった一つしかない湯呑で酒を飲み、一膳しかない箸で猪鍋をつつく快楽。酒を飲み、猪肉を頬張る仕草が実に美味そうで良いなあ。同じ酒を飲むのでも、景色次第で味が変わる、家内に睨まれながら飲むより、仲間とこうして愉しく飲む方が数段美味いという台詞に成程と思う。

猪肉をいきなり口に放り込んで、「熱い!」とほきだして鍋の中に戻してしまった黒川先生。歯が悪いので「私は葱専門で」と言いながら、ちゃっかり猪肉を間に挟んで食べる三河屋さん。瓢に残っていた酒ですでにベロベロに酔っている辰っつぁん。役人に見つかってはいけないと、鍋の上から座って、汁が褌に浸みこんでしまった宗助さん。禁断の番小屋での酒宴を楽しむ風景が浮かぶ。

でも、一番飲んだり、食べたりしているのは番小屋を見廻りにきた役人で、鯉昇師匠はこの人の飲み食いを一番長く描いていたのが、何とも皮肉で面白かった。