こみち流音曲噺九夜 柳亭こみち「鰍沢」

上野鈴本演芸場十一月下席七日目夜の部に行きました。今席は柳亭こみち師匠が主任で「こみち流音曲噺九夜」と題したネタ出し興行だ。①舟弁慶②七段目③任侠流山動物園④三枚起請⑤植木のお化け⑥らくだの女⑦鰍沢⑧稽古屋⑨掛取万歳。今夜はオリジナリティ溢れる工夫を凝らした音曲入りの「鰍沢」、大変に結構だった。

「元犬」林家十八/「スライダー課長」林家つる子/太神楽曲芸 翁家社中/「首領が行く!」林家きく麿/「野ざらし」古今亭菊之丞/紙切り 林家楽一/「真田小僧」三遊亭律歌/「粗忽の釘」五街道雲助/中入り/漫才 ニックス/「のめる」古今亭文菊/粋曲 柳家小春/「鰍沢」柳亭こみち

こみち師匠の「鰍沢」。新助が身延の参詣を終えた後に吹雪に遭い、道に迷って人家を探すところ。ようやく人家を見つけて囲炉裏の火に当たらせて貰い、人心地ついたら、助けてくれた女性が以前に世話になった熊造丸屋の月之兎花魁で、男と心中し損なったことを語り出すところ。音曲入りにすることによって、緊張感が増し、とても効果的だった。

話を聞いた新助が、品川から逃げたとはいえ、今こうして惚れた男と熊の膏薬売りで生計を立てて二人暮らしが出来ていることを、めでたい、羨ましいと言う。狂言作者が聞いたら乙な二番目狂言が出来そうだと言って、一晩お世話になる御礼として懐から幾らかの金を渡したときに、お熊の目が新助の懐をジッと鋭く見つめていたのが、巧みに後半の伏線になる。

お熊が毒を入れた玉子酒を、そうとは知らずに「私は下戸なもので」と断り、一杯だけ飲んだ新助。心中のし損ないによる首の傷跡のあるお熊をしげしげと見て、「あの頃は雲母摺(きらずり)の美しさだったが、今はしっとりとした墨絵のようだ」という新助、お熊の頭には懐にある百両に思いが至っていたとは知る由もなかったろう。

膏薬売りから帰ってきた亭主の伝三郎が、毒入りの玉子酒の残りを綺麗に飲み干してしまった。毒が回って苦しむ伝三郎に訳を話すお熊、「迷わず成仏してくれ。仇を取ってやる」と言って、火縄銃を抱えて逃げる新助を追い掛ける。「おーい、旅人!撃ち殺してやる!」という台詞に迫力があった。

追い込まれた新助。後ろは鉄砲、前は崖。唱えるお題目。急流の鰍沢の筏の丸太にしがみついていると、鉄砲の弾が頭をかすめた。「はて助かりしか」から始まる芝居台詞がカッコよく決まり、終演。「お題目(材木)で助かった」という地口落ちではない、サスペンスの幕引きに相応しい芝居台詞で終わるというこみち師匠の演出に拍手を送った。