落語一之輔春秋三夜 第一夜

「春風亭一之輔独演会 落語一之輔春秋三夜 2023秋」第一夜に行きました。「河豚鍋」「だくだく」「居残り佐平次」の三席。開口一番は春風亭いっ休さんで「寿限無」だった。

「河豚鍋」。鍋の中の具材を全てさらった後に作る雑炊へのこだわりが一之輔師匠らしくて楽しい。ご飯は冷や飯がいい、万能ねぎ?あさつき?を刻んで、刻み海苔は市販のモノでなく手でクシャクシャ、玉子の量とかき混ぜ加減、そして入れるタイミング、さらに残ったポン酢を加えて…。演じ終わった後に袖で聴いていた長井好弘さんが「これは(演目が)河豚鍋じゃなくて、河豚雑炊だね」と笑っていたという。同感!

「だくだく」がネタ卸し。描いてもらう家財道具のディテールが愉しい。床の間の掛け軸は天照大御神。金庫が半開きになっていて、1万円札が300枚ばかり、聖徳太子で透かしも入れて。茶箪笥は三段になっていて、真ん中の違い棚には茶道具と菓子皿、羊羹は虎屋で。欅の長火鉢に南部鉄瓶がかかっていて、チンチン沸いていて、湯気がシューと出ている…。

仙台平の袴が脱ぎ捨ててあり、横で奥方が「畳まないと皺になっちゃうよ!」と小言を言っている。三毛猫が首に鈴を付けていて、欠伸をしていて、名前はタマ。クロード・モネの「睡蓮」の絵が掛かっていている、絵の絵って?!台所のへっついに五合炊きの釜が掛かっていて、火がボーボーと燃えている。危ないなあ。これから益々、一之輔カラーに染められていくだろう。

「居残り佐平次」。佐平次の調子の良さが心地よい。若い衆が「お勘定を…」と言葉に出すと、ダァー、バン!バン!とピストルを撃つ格好ではぐらかすスタイルが面白い。「人間はどこまで遊べるのか、その先を見に来た、限界を突き止めたい」という台詞も可笑しい。

それでも払ってほしいと言われると、「払っちゃっていいの?商売に疎いなあ。昨夜の4人が裏を返しに来るんだよ。祝儀を撒いて、ドンチャン騒ぎ。それでも帰っていいの?商売が上手いとは言えないなあ」。

ついに追い詰められると、「金がないと言ったら、君はどうする?ありゃあ、払うよ。どうしようかなあと思って。切羽詰まったときは、落ち着くべきでしょう」と居直る。4人の友達は“バカに新規の友達”、どこに住んでいるのかなあ?叔父さんがいるけど、ドバイで油を売っている!世の中、成り行き、行灯部屋に下がりやしょう!ヘラヘラしているのが佐平次の佐平次たる所以だ。

“居残り”となった佐平次は持ち前の気働きと器用さで人気者になっていく様子も愉しい。懐紙が切れたらすぐに持ってくる、三味線の三の糸を調弦してあげる、半襟の繕い、手紙の代筆、果ては確定申告まで…。

紅梅さんのところの勝っつぁん、ウチカッツァンの懐に飛び込むのも巧い。あの凛とした紅梅さんがトロトロとふやけちゃう、どういう術を使うのかしら?この色魔!おばさんに「勝五郎さんだけがお客じゃないんだよ!」と小言を言われた紅梅さん、燗冷ましを呷って、三味線で♬浮名立ちゃぁ、それも困るし、世間の人に知られないのも惜しい仲~と都々逸を唄った様子をさも目撃したかのように喋る佐平次の調子良さに誰もが巻き込まれてしまうのも仕方ないなあと思う。

幇間顔負けのヨイショの機銃掃射、居残り佐平次。無銭飲食の上に、旦那を騙して30両と着物、帯、履物一式を貰って鼻唄を歌いながら店を後にするのは詐欺行為で犯罪者同様なんだけど、なぜか憎めないというのがこの噺の不思議な魅力なのだと思う。