春風亭一之輔のドッサりまわるぜ 2023 ファイナル

春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2023ファイナルに行きました。「抜け雀」と「鼠穴」の二席。開口一番は来月から二ツ目に昇進する弟子のいっ休さんが「やかんなめ」を演じた。輝いていた。

「抜け雀」。一文無しが衝立に描いた二匹の番(つがい)の雀。宿屋の主人は雄にチュン太郎、雌にチュン子と名前を付けて可愛がっているのがいいね。女房のおみっちゃんをこよなく愛しているのもいい。そして、この夫婦を模するように、雀の雄がぼんやりしていて、雌がぶくぶく太っているという…。

一文無しの父親が、「雀が絵から抜け出る力があるなら、止まり木(松の木)を描いて休ませないといけない。折角、夫婦の雀なのだから巣を描いてやろう」と言う。やがて、巣で雌の雀は卵を産むという演出も素敵だなあ。松を描いたのは、父親は待っているというメッセージではないか、帰った方がいいと宿屋主人が一文無しだった息子の絵描きに言い、「卵が先に孵(かえ)った」というサゲが鮮やかだった。

「鼠穴」。竹次郎に兄が“たった三文”しか渡さなかった10年後。竹次郎は商売が成功して、深川蛤町に立派な店を一軒持った。そして、三文と利息の二両を持って、竹次郎は兄の店を再訪する。兄は「お前は茶屋酒の味が抜けていなかった。だから、三文しか渡さなかった。すまなかった」と謝罪するが、竹次郎は「あのとき三文渡されたからこそ、ここまでこれた」と感謝の言葉を述べる。ここに兄弟愛を感じる。

夢の中の竹次郎に対する兄の取った行動が極悪非道のように思えるが、理屈に適っているような気もする。火事から立て直しをするのに50両貸してほしいという竹次郎に対し、「5両なら自分の小遣いから渡すことができるが、50両となると奉公人たちが稼いだ店の金から出さないといけない。それはできない」というのももっともだ。

また、(竹次郎が)女房や子どもを持ったのは“贅沢”だ、俺を見ろ、未だに独り者でやっている。女房が病気かもしれないが、寿命というのは逆らえない、薬を飲んで治る人は飲まなくても治る、飲まなくて治らない人は飲んでも治らない。「お前に甘えがあるから火事になるのだ」は流石に言い過ぎだと思うが、兄の言うことにも一理あるような気もする。

この噺を聴くたびに、これは「夢で良かった」と単純に安堵する噺ではない、兄弟とは何か?兄弟の間にどれだけの優しさとどれだけの厳しさをもって付き合ったらいいのか、そんなことを考えさせられる。