秋の噺ガチャ 柳家三三「寝床」

上野鈴本演芸場十月下席六日目夜の部に行きました。今席は桃月庵白酒師匠が主任で「秋の噺ガチャ」という特別企画公演だ。事前に20の演目を出しておいて、その日の中入り後にガチャガチャから出てきたカプセルに入ったネタを演じるという趣向。その演目は①居残り佐平次②寝床③幾代餅④火焔太鼓⑤明烏⑥木乃伊取り⑦山崎屋⑧宿屋の仇討⑨死神⑩不動坊⑪抜け雀⑫付き馬⑬井戸の茶碗⑭花見の仇討⑮芝浜⑯富久⑰らくだ⑱乳房榎⑲メルヘンもう半分⑳寄席よりの使者。

ここまで5日間は①木乃伊取り②抜け雀③宿屋の仇討④山崎屋⑤居残り佐平次だった。そして、きょう六日目だけ白酒師匠が休演。柳家三三師匠が代バネを勤めることになり、同様にガチャをやるという。ただし、この20演目のうち、10演目に絞ってという趣向で、①居残り佐平次②寝床③明烏④山崎屋⑤宿屋の仇討⑥花見の仇討⑦芝浜⑧富久⑨乳房榎⑩メルヘンもう半分、以上から演目が三三師匠のガチャによって決まる。個人的には「乳房榎」や「メルヘンもう半分」に期待が高まったが、結果は「寝床」だった。面白い。こういうユニークな企画はどんどんやってほしいと願う。

「たらちね」金原亭駒介/「牛ほめ」桃月庵こはく/紙切り 林家楽一/「戦え!おばさん部隊」三遊亭白鳥/「地下鉄戦国絵巻」古今亭駒治/漫才 ニックス/「壺算」むかし家今松/「元犬」隅田川馬石/中入り/噺ガチャタイム/マジック 小梅/「反対俥」柳家わさび/ジャグリング ストレート松浦/「寝床」柳家三三

調べてみたら、三三師匠の「寝床」を生で聴いたのは、2017年9月の横浜にぎわい座以来だった。長屋をくまなく廻って、旦那のところに戻り、「中にはおいでにならない方も…」と言って、長屋連中そして奉公人たちの義太夫の会欠席の理由を頑張って並べた繁蔵なのだが。「で、お前はどうなんだ?」と旦那に詰問されて…。

三三師匠が心の叫びのように、「桃月庵はよそに逃げて、弟弟子の馬石は頑張ってくださいと言うだけ。龍玉にいたっては高座で人を殺すだけ…結局、貧乏クジはいつも俺なんだよな」と言うのが無性に可笑しい。そして、国に年老いた母親がいる、母一人子一人、私にもしものことがあったら…、さぁー、お語りください!存分に!先立つ不孝をお許しください!覚悟の決まった繁蔵に思わず同情したくなる。

怒った旦那が長屋の店子は全員店立て、奉公人には暇を出すという一大事となって、昨晩の寄合で飲み過ぎて二日酔いの番頭が説得に動き出す。「私は生涯、語らない」とムキになっている旦那に対し、「長屋の連中は今や遅しと待っています。聞こえませんか?地を這うような、ギ、ダ、ユー!という声が。皆さんは肩を組み、赤い旗を振っています。民の声は義太夫を求めています」。少し心が解ける旦那だが、「今、チラッと『メルヘン』という声が聞こえたが」と言うのが可笑しい。

長屋の連中を追い返すという番頭に対し、「この国には『そんなことをおっしゃらずに』という美しい言葉がある。お前にはその言葉を使いこなせる人間になってもらいたい」と言う旦那が可愛い。そして、「お前さんが勝手に長屋の連中に約束してしまった尻ぬぐいに語ります」と、本当は語りたくてしょうがない本心を隠しながら、嫌々ながら義太夫を語るという体裁にするところは、旦那にも大人気ない言動をしてしまったという羞恥心があったのだろう。

下手な義太夫を聞かされるという迷惑極まりない騒動の愉しさの中に、繁蔵、番頭、そして旦那の心の機微みたいなものが見え隠れしているところに、この落語の面白さがあるような気がする。