九代目春風亭柳枝真打昇進襲名披露宴

帝国ホテル孔雀の間でおこなわれた九代目春風亭柳枝真打昇進襲名披露宴に行きました。

ついに披露宴ができた。柳枝師匠は今頃、胸を撫で下ろしているに違いない。2021年3月21日に真打に昇進。本来なら、その前に披露宴をおこなうはずだったが、長引くコロナ禍で3度延期になり、4度目のきょう、ようやく開催することができた。2年半。お客様に完全な形でおもてなしできるパーティーをやりたいと柳枝師匠が強く願って、粘りに粘り、こだわった。僕もそんなに噺家さんの真打昇進披露宴に多く行ったわけではないが、こんなにも素晴らしくて、感動したのは初めてである。

開宴すると、まず師匠の春風亭正朝師匠が挨拶に立った。今の柳枝が入門したのは2006年、ジーコジャパンが3連敗した年でしたと、サッカー好きの師匠らしい笑いを取る。前座のうちから「優秀だ」という楽屋での評判を取ったが、私は至らないところがいっぱいあると思っていた、だけど二ツ目になって色々な賞を頂いたりして、周囲の評価も高くなり、そろそろ真打という声が聞こえたときに、師匠の自分にしてあげられることは何かと考えた。

62年間空いていた「柳枝」という大名跡が落語協会にあった。権太楼師匠に相談したら、「いいんじゃないか」。会長の市馬師匠も「喜ばしいこと」と言ってくれた。で、本人に「なるか?」と問うたら、暫く考える猶予を与えようと思っていたのに、素直に「なります!ならしてください!」と返事が返ってきた。それほどに、正太郎、今の柳枝師匠は真っ直ぐな噺家なんだと僕は思う。

そして、2021年3月21日の鈴本での大初日の権太楼師匠の口上を忘れることができないと言う。場内がおめでとう一色のムードの中、これまでの正太郎では駄目なんだ、覚悟を持って柳枝という大名跡に恥じない、負けない、そして大きくしていく噺家にならなくてはいけないと。

続いて、その権太楼師匠が開宴の言葉を述べた。今、落語協会には200人以上の真打がいる。だけど、寄席の10日間興行で主任になれる人はほんの一握りである。その中、柳枝は真打の披露目が終わった後、鈴本や末廣で主任を勤めている。偽りなき大看板です。そう言って、「祝おう」がヨーォという掛け声になると言って、三本締めの音頭を取った。

プロフィール紹介、主賓の西脇京都府知事の挨拶、鏡開きと続いて、乾杯の発声は落語プロデューサーの京須偕充さん。先代の柳枝師匠の思い出を語る。「野ざらし」「花色木綿」といった絶品の高座。53歳で夭折したときにニッポン放送で放送された追悼番組で、木下華声司会で七代目圓蔵や八代目貞山が闊達にお喋りしていたことなど、昭和17年生まれの京須さんだからこそのお話しが興味深かった。

披露宴に出席出来なかった2人からのビデオメッセージ。春風亭一之輔師匠は、正朝師匠から「野ざらし」を習ったのに、その時のテープを消してしまって、正直にそのことを詫びて、もう一度稽古をお願いしたエピソードを披露。何が言いたいかというと、「素直が一番」。「笑点に魂を売った一之輔でした」で締めた。

もう一人は柳亭市馬会長。いきなり、相撲甚句披露。ここは日比谷の帝国ホテルよ、秋風そよぐ佳き日に君がため、ここに柳の大看板、襲名めでたや、待ってましたの掛け声と、ともにご贔屓末永く、どうぞお願いいたします。

獅子舞の披露、人形浄瑠璃文楽の吉田玉助さんが主遣いを勤める寿式三番叟、そしてお待ちかね、さだまさしさんの登場だ。さださんの大学時代の落研の同期に、安田学園の教師をしている三木先生がいて、その三木先生が自分の教え子に落語を演らせたくて、白羽の矢が立ったのが、当時中学生だった小杉少年。今の柳枝師匠というご縁だ。柳枝師匠のリクエストで♬道化師のソネット、そしてアンコールに応えて♬いのちの理由を生演奏。豪華!

最後に柳枝師匠が挨拶に立った。今、幸せな気持ちでいっぱいだと言って、きょうは中秋の名月。藤原道長の気持ちがわかると。この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思えば。ただ、真打昇進からこの披露宴までの間に、ここに出席したであろう方が複数、天国に旅立った。この晴れ姿を見てもらいたかったと言って、感極まって涙を流している柳枝師匠を見て、こちらももらい泣きしてしまった。

大締めは、春風亭一朝師匠。もう一度、三本で締めてお開きとなった。

司会の柳家喬太郎師匠がおっしゃっていたが、我々柳家は亡くなった五代目小さんの下にある。その小さんという名跡の初代は春風亭小さん。その小さんの師匠が初代春風亭柳枝である。それだけでも、本当に大名跡であることがわかる。その名跡を九代目として襲名した柳枝には、並々ならぬ期待がかかっている。そして、襲名以降、それに見合う実績をコツコツと積み重ねていることは皆さんご存知の通りだ。

九代目春風亭柳枝が今後益々精進して、芸を磨き、素晴らしい高座をどんどん見せてくれることを切に願うし、我々も微力ながら応援していきたいと思う。