よってたかって秋らくご

「よってたかって秋らくご」昼夜公演に行きました。昼の部は伯山先生、萬橘師匠、百栄師匠、兼好師匠。夜の部はきく麿師匠、一之輔師匠、白鳥師匠、喬太郎師匠というラインナップだ。

神田伯山「阿武松緑之助」

大飯喰らいの長吉を見捨てた武隈親方と拾った錣山親方の人間的な差について考えさせられる。というか、力士はよく食べて、身体を大きくすることが最初のうちは肝心ではないか。長吉の体格を見て、「これは良い!」と絶賛した錣山に判断力があり、武隈に見る目がなかったということ。師匠の了見次第で、有望な才能が生きるか、死ぬかが決まる。これは現代の色々な分野にも当てはまる。

三遊亭萬橘「短命」

伊勢屋のお嬢様と若旦那のおまんまのやりとりをそのまま自分の夫婦で再現しようとするところに、八五郎の愚かさと可愛さが同居しているのが愉しい。ふるいつきたくなるような、いーい女だからこそ成立することを、自分の女房に当てはめようとして、女房も嫌々ながら協力し、挙句に幻滅するところが実にチャーミングである。きっと八五郎の夫婦も仲良しなのだと思う。

春風亭百栄「ホームランの約束」

仕方なく慰問に来た日暮里ワイルドキャッツの4番バッターに対し、野球になんか興味がない少年の醒めた目線が実に愉しい。皆が皆、野球に興味があると思ったら大間違い、恩着せがましく渡されたサインボールの受け取りを拒否して、どうせあなたは野球しかやってこなかった、社会常識なんかないんでしょうと斬るあたりの皮肉最高。隣のベッドの前立腺手術で入院しているおじいちゃんが良い味付けになっている。

三遊亭兼好「船徳」

船頭になるにあたって、親方から「やめたいときにはやめていい」と言われたカードを船を漕いでいる最中に切る徳さんが可笑しい。小唄を歌うことに夢中になり、櫓を漕ぐのが疎かになるのも、いかにも若旦那らしい。非力で芝浜まで流されてしまったエピソードも笑える。

林家きく麿「童謡作り」

働かないで収入を得る方法として、童謡を作詞作曲すれば楽に著作権料が入ると考える主人公の安直が可笑しい。♬ぞうさん、♬おうまはみんな、を引き合いに出し、「こんな子供騙しの唄、いくらでも作れる」とうそぶいたが…。実はそれが如何に難しいことか、センスがないと出来ないことか、が判ってくるところに、この噺の面白さがあるように思う。

春風亭一之輔「千早ふる」

古典落語にオリジナルのギャグをこれでもか!というくらいに徹底的にぶちこんで、原型をとどめないくらいにしても、芯の部分は外さずに壊していない。その一之輔流の笑いの作法が素晴らしい。月刊「相撲」5月号の杉山アナのどすこいインタビューで、龍田川のウィークポイントは「口が臭いこと」と書いてあった。でも、相撲をやめて豆腐屋になったら、食生活が変わって体質が改善され、口が臭くなくなったという…。これだけ取っても、爆笑モノである。

三遊亭白鳥「それいけ!落語決死隊」

もう、白鳥師匠にしか描けない唯一無二の世界。変異株が次々と出てきて、コロナが蔓延し続け、街はロックダウン。そんな中でも闇の落語会が開かれ、柳家三三ファンが、闇落語禁止法を取り締まる警察やら、他の落語家のファンやらの妨害を搔い潜って、会場に行こうとする。まさに決死隊。最後は客席を巻き込んで、アジャラカモクレン~を一緒に唱和して、コロナを退散させるという荒技!すごいっス。

柳家喬太郎「ウルトラ仲蔵」

キングの親方に推挙され名題に昇進したウルトラマン仲蔵だが、早く菊五郎や團十郎のように地球防衛の仕事を任されたいと願うが、なかなか良い役が回ってこない。妙見様にお参りに行った帰り、浪人のケムール人と出会い、ヒントを得た仲蔵はスペシウム光線を応用した八つ裂き光輪を編み出し、見事にバルタン星人を打ち倒す。

血筋が無く、“芸”で勝負するしかない仲蔵が、派手さを求めてはいけない、実を取らなくては、技が肚に落ちていなくてはと悩む様子が、いかにも喬太郎師匠らしい創作だ。そして、その精進が認められて、太陽系第3惑星の地球の防衛をレギュラーで任せられ、「ウルトラマンに二つ名前は要らない」と、仲蔵が取れて、初代ウルトラマンとなる出世譚は、マニアばかりでなく、ウルトラに詳しくない落語ファンにも大いに楽しめる作品になっているのが凄い。