立川吉笑 真打トライアル VOL.3

「立川吉笑 真打トライアル」VOL.3に行きました。ゲストは春風亭一之輔師匠。Eテレで放送していた「落語ディーパー」で共演していたご縁である。

「片棒・改」立川吉笑/「意地くらべ」春風亭一之輔/中入り/「時そば」立川談笑/「くじ悲喜」立川吉笑

吉笑さんが好きな古典落語は?と問われたら、「酢豆腐」の前半と答えるそうだ。きょうのプログラムでその理由が書かれている。

長屋の連中が、ただただ「誰がぬか床から古漬けを取り出すか」について話し合う前半は、劇的なストーリー展開や、ダイナミックな発想の飛躍など何もないけど、上手い落語家が演じるそれは、ずっと聴いていられる。(中略)

酢豆腐の前半のようななにも起こらない、なんの意味も無いような、そんな永遠の一瞬を瑞々しく描けるのが落語の真髄なのかもしれないと思うようになった。それを可能にするのが「芸の力」なのかもしれない。以上、抜粋。

そして、一之輔師匠の落語はそんな落語の真髄が詰まりに詰まっている、あんな風に落語を演れたらどれだけ楽しいだろう、羨ましい、と尊敬の気持ちを表わし、同時代に同じ落語の道を歩んでいけることが幸せだとしている。

立川談志が「伝統を現代に」と標榜した意味は、古典落語に現代のギャグをぶちこめという、そんな単純なことではない。勿論、それも手法の一つであることは確かで、一之輔師匠はそういう古典落語も沢山持っている。

だが、それだけではない、江戸・明治から伝承されている落語を現代に納得いく形で笑わせる実力(それを「芸の力」と呼ぶのかもしれないが)を一之輔師匠は持っている。

登場人物のキャラクターの造型、人物の喜怒哀楽の表現、そして人間という生き物の可愛さと哀しさ。一之輔落語にはそれがいっぱい詰まっている。これは図ったわけではないだろうが、きょう演じた「意地くらべ」はその芸の力が遺憾なく発揮された高座だったと思う。強情には強情の理屈があり、その強情に人間臭さみたいなものが流れている。一之輔師匠はこの噺が好きなんだと聞いたことがある。

それを吉笑さんはよく判っていらっしゃるのが、とても嬉しかった。吉笑さんは新作を中心に活動しているが、古典落語にも愛着があることは二ツ目初期の段階から見ているとよく判る。そして、真打昇進後、落ち着いたところで古典落語にも取り組んでいくのではないか。

それと、もう一つ。師匠談笑の作品である「片棒・改」を掛けたことも嬉しかった。一時期、僕は談笑師匠の改作落語に夢中になったことがあった。「薄型テレビ算」「イラサリマケー」「ジーンズ屋ゆうこりん」「鼠穴・改」…。その才能に惚れこんだ。師匠へのリスペクトの高座だったのだろう。

今回のトライアルのプログラムの表紙に「伝統と革新の遺伝子」というキャッチコピーがある。これは談志から談笑へ、談笑から吉笑へと受け継がれていく精神のことだろう。その意味で、吉笑さんはこれから先、古典、新作、改作と落語の可能性の裾野をどんどん広げていく宣言のようにも取れた。

楽しみな真打が間もなく誕生することは間違いない。確信した夜だった。