【大相撲秋場所】熱海富士、惜しくも平幕初優勝を逃す

大相撲秋場所は優勝決定戦の末、大関の貴景勝が平幕の熱海富士を破って、今年初場所以来、4回目の優勝を決めた。カド番の場所での優勝は2016年秋場所の豪栄道以来である。

今場所の土俵を盛り上げた最大の功労者は今場所再入幕した21歳の熱海富士だ。14日目まで常に優勝争いのトップに立っていた。優勝すれば初土俵から18場所目で、貴乃花(当時の貴花田)の21場所を大きく上回る記録だった。

千秋楽、朝乃山との一番。3敗で単独トップの熱海富士は、これに勝てば優勝というプレッシャーがあったのだろうか。大関経験者の朝乃山に右を差されて一気に押し込まれ、土俵を割ってしまった。

4敗で後を追っていた4人の力士にも優勝のチャンスがめぐってきた。まず、平幕の北青鵬は大関の豊昇龍と対戦。負ければ負け越しになる豊昇龍が意地を見せて北青鵬を退けた。結びの一番では、同じく平幕の高安が大関の霧島と対戦。霧島のはたきに土俵に這い、高安も優勝戦線から脱落した。

結び前の一番は同じ4敗の貴景勝と関脇の大栄翔が対戦。突き合いとなったが、貴景勝が押し勝って、4敗を守り唯一、熱海富士との優勝決定戦に臨むことになった。

優勝決定戦はこれまでの土俵経験の差が勝敗を決めた。これまで優勝3回の貴景勝が、立ち合い思い切って前に突進した熱海富士に対し注文相撲で、はたき込み。あっけなく勝負が決まった。後味の悪い相撲だった。

11勝4敗での優勝というのは、あまり褒められたものではない。2017年秋場所に横綱の日馬富士が豪栄道との優勝決定戦を制したとき以来の低レベルの優勝だ。だが、ケガで先場所全休してカド番で迎えた場所で優勝し、横綱の照ノ富士が休場で不在の中、大関の意地を見せたことは評価できるだろう。

今場所も飛び抜けて強い力士がいない混戦の場所だった。新大関の豊昇龍は8勝7敗とやっとこさで勝ち越し。大関2場所目をカド番で迎えた霧島も9勝6敗。ふがいない成績だった。優勝した貴景勝も、初日に北勝富士にはたき込まれ、7日目と8日目に正代、翔猿に不覚を取り、安定しない相撲だった。13日目に熱海富士に勝って、優勝争いのトップに並んだのに、翌日には豊昇龍に土俵際の逆転に破れ、千秋楽に思いがけず優勝が“転がり込んできた”という表現が適切かもしれない。来場所以降の三大関の奮起を期待したい。

次の大関を狙う関脇陣も、大栄翔が後半8連勝して10勝を挙げたが、若元春、琴ノ若ともに9勝止まり。確実に勝ち越す実力はありながら、爆発的な星を挙げる活躍が見られないのが残念だ。

そんな中、冒頭にも書いたが、今場所再入幕の熱海富士が優勝争いを盛り上げた功績は大きい。敢闘賞のみでは可哀想なくらい奮闘してくれた。まだ若い、この苦い経験を踏み台にして、今後も大きく飛躍することを願う。先場所の新入幕の伯桜鵬の活躍同様、新しい力が台頭してくれたお陰で何とか相撲人気を支えている。伯桜鵬は肩の怪我の治療のために今場所を全休、来場所は十両に落ちての再スタートとなるが、じっくりと焦らずに待つとしよう。

また先場所新入幕で敢闘賞を受賞した豪ノ山が前頭5枚目で9勝、同じく湘南乃海は残念ながら7勝だったが健闘した。来場所小結に昇進すると思われる北勝富士、阿炎。そして幕内上位に朝乃山、宇良、明生、小結から陥落が予想される翔猿や錦木も加わり、関脇以上の上位を脅かすだろう。

大関以下、幕内上位まで実力伯仲、群雄割拠の時代はまだまだ続く。十両で13勝2敗で優勝した一山本が再入幕してどんな活躍をしてくれるかも楽しみだし、惜しくも1差で優勝を逃した新十両の大の里の土俵も目が離せない。

一年納めの九州場所も、自信をもって優勝候補に挙げる力士がいない状態は続くが、現在の混戦状態からどんな思わぬ力士が飛び出してくるのか。またそれも楽しみである。

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