柳亭信楽 化ける会

「柳亭信楽 化ける会」に行きました。「エレベーター」「市長室」「大山詣り」の三席。開口一番は桂南海さんで「牛ほめ」、ゲストは三遊亭遊雀師匠で「蛙茶番」だった。

「エレベーター」。発想がすごい!エレベーターという密室で知らぬ人間と2人きりになった状況で、主人公が心の中に思ったことを、ホアンホアンホアン~という擬音と身振りでアクセントを作って喋るのだが…。実はそれは演出ではなくて、実際に相手にすべて聞こえていたという…!聴き手を良い意味で裏切って、笑いを増幅する手法が素晴らしいと思った。天才的なものがある。

「市長室」。本人いわく「絶対、NHKではできないだろう」とおしゃっていたが、このブラックなユーモアセンスこそ、現代に求められていると思う。というか、この手の笑いを否定したら落語という文化は停滞してしまう。

クリーン、透明性を売り文句にしている市長は、市長室をガラス張りにして、自分の一挙手一投足と発言をすべてYouTubeで公開している。名誉市民に選ばれたフィギュアスケートの金メダリストがその市長室を訪ねると…。

談合やら裏金やらの危ない言葉が飛び交い、秘書にはセクハラ、パワハラしまくり。おまけに「野球や相撲や柔道は男社会だからね。その点、フィギュアなら僕が掲げるジェンダーにピッタリだ」。コンプライアンスがかまびすしい世の中、この手の笑いを寛大に受け止めてほしいと切に願う。

「大山詣り」。信楽さんは古典が演りたくて、噺家になったのだそうだ。古典落語に描かれている世界を敬愛しているのがよく伝わってくる。新作が面白いと、古典にも独自のギャグをふんだんに入れ込むのだろうと思う人もいるかもしれないが、それは違う。江戸・明治時代から継承されている独自の文化を大切にしていることがよく伝わってくる高座だった。

冒頭、吉兵衛さんのところに長屋の衆が「今年もオヤマの時期になった。ついては先達をお願いしたい」とやってくる場面は初めて見た。そこで吉兵衛さんが「オヤマに行くと必ず喧嘩が起きる。私は行かないつもりだ」と言う。そこを「では決め式として、腹が立ったら一分、殴ったら坊主にするというのはいかがでしょう?」と提案して、吉兵衛さんを説得する。通常とは逆の型。こういう型が昔からあるのか、それとも信楽さんが考えたのかは不明だが、なるほど!と思った。