SWAクリエイティブツアー「明日の朝焼け」

SWAクリエイティブツアーに行きました。今回は、2007年9月に新宿明治安田生命ホールで開催した「SWAブレンドストーリー」の再演だ。テーマは「明日の朝焼け」。16年ぶりなのに色褪せず、寧ろパワーアップして蘇ってきた。

「恋するヘビ女」三遊亭白鳥/「夫婦に乾杯」春風亭昇太/中入り/「臼親父」林家彦いち/「明日に架ける橋」柳家喬太郎

主人公・安田たかしの12歳から60歳までの人生が、四ツの噺によって紡がれていく。それぞれの噺が独立した高座としても成立するが、連続して演じられることによって、互いを刺激し合って、化学反応を起こし、面白さが増幅しているのが素晴らしい。

たかしは「恋するヘビ女」で小学校卒業前夜、「夫婦に乾杯」で結婚7年目、「臼親父」では52歳になっている。そして、「明日に架ける橋」で還暦を迎えて、定年退職するという…。今年還暦を迎える喬太郎師匠は、創作当時は44歳だったわけで、今年こうやって再演されることは、4人の演者さんたちにとっても感慨深いものがあるだろうし、ずっとSWAを追いかけてきた僕たちもまた同じ気持ちだ。

「明日に架ける橋」は2007年2月に発売された「落語ファン倶楽部」VOL.3(白夜書房)の特別付録CDに、春風亭昇太師匠の口演で収められている。SWA-CHALLENGE三題噺として、高田文夫編集長が出した「二〇〇七年問題」「バイオエネルギー」「吾妻橋」のお題を基に5人のメンバー(当時は神田山陽先生も在籍)が総力を挙げて創作した作品だ。

僕はこの噺がとても好きだ。まず、会社のオフィスをコンセプトにした居酒屋というのがいい。そこに定年を迎えた安田と、それよりも少し前に退職した友人と飲みに行く。ビールやおつまみを運んできてくれるのがOLさんで、彼女らとの“昭和テイスト満載”の会話を肴に飲むのが嬉しい。こういう風景というのも、パワハラとかセクハラとか、コンプライアンスとかジェンダーとか言って成立しなくなった。せめて噺という架空の世界で懐かしむのはいいのではないか。

それと、安田が初任給で買ったオーダーメイドの背広(スーツと言わないところがいい)を“白線流し”よろしく、隅田川へ流すという設定がとても素敵だ。どこからともなく定年を迎えた男たちが私も、私もと言ってネクタイやらワイシャツやらを一緒に繋ぐ。本家の白線流しは高校生の卒業の儀式だが、これは“サラリーマン卒業”の儀式なのだ。

この背広やワイシャツに染み込んだ長年の汗、涙はもとよりラーメンの汁のはねたのとか、コーヒーを溢したシミだとかが、隅田川に流されたことによって、不思議な力となる。バイオテクノロジー的な化学反応によって、淀んでいた隅田川が浄化され、“美味しい水”になるのだ。奇跡である。これも日本の経済を支えて働いてきたサラリーマンたちの功績を讃える自然現象なのかもしれない。

日本のお父さんたちは頑張った。ご苦労様。でも、まだまだ頑張れる力が残っている。これからも無理ない程度に頑張ってね。それは還暦世代となったSWAメンバーの「まだまだこれからもやるよ!」という意気込みにも聴こえるのである。