春風亭昇太 滑稽魂

「昇太 滑稽魂~春風亭昇太独演会」に行きました。「鮑のし」「幽霊の辻」「宿屋の仇討」の三席。開口一番ゲストは立川生志師匠で「粗忽長屋」だった。

「鮑のし」。杖突き熨斗は鮑のお爺さん、という本来のサゲまでのフルバージョン。二ツ目になりたての頃に覚えて演っていたが、もうずっと演っていなくて、相当久しぶりにやったけど、手応えがあって良かったとおっしゃっていた。

おバカな甚兵衛さんを周囲の皆が愛している感じがよく出ている。1円儲けるからくりを丁寧に説明されても50銭を貸してくれるお隣さん、尾頭付きはないけど祝い物なら鮑がいいと安く売ってくれた魚屋さん、それに息子の婚礼に祝いに来てくれて嬉しいのに「磯の鮑の片思い」と突き返してしまう地主さんまでも甚兵衛さんを腹の底では愛しているのが伝わってくるから、聴いていて笑顔になる。勿論、おかみさんにも愛されている…はずだ。

「幽霊の辻」、ネタ卸し。小佐田定雄作品。調べたら、昭和52年に小佐田先生が桂枝雀師匠のために書いた新作落語で、これが落語作家デビューだそうだ。権太楼師匠はじめ、多くの噺家さんがこの作品を演るようになり、昇太師匠いわく「もはや古典と言ってもいい」。

怪談噺の体裁を取っておきながら、実は滑稽噺…というのがこの噺の最大の魅力だ。堀越村に手紙を届けに行く主人公が、茶店の婆さんに道を尋ねると…。水子池やら、獄門地蔵やら、父追橋(てておいばし)やら、なんだか恐ろしいエピソードに彩られた通過点を通らなければならず、主人公が過剰に怖がる様が面白い。

枝雀師匠は枝雀師匠、権太楼師匠は権太楼師匠の爆笑の型があって、それにこの噺がうまくはまって、爆笑に次ぐ爆笑になるのだが、昇太師匠にも昇太スタイルとでもいうべき、自分を勝手に追い込んでしまう自滅型の笑いのスタイルがあるから、それがこの噺にピタッとはまった。特に怖い場所全部が“ぐるぐる巻き”というキーワードで括れるところは、笑いのツボだし、婆さんの一個一個の怪談について「…というのが出たり、出なかったり」という曖昧表現が逆に主人公の恐怖を煽っているのも面白かった。

「宿屋の仇討」は鉄板だ。江戸の“始終”三人組のはしゃぎぶり、そして伊八が注意に来て、シュンとなる、そのパターンを何度も繰り返すのが愉しい。

昇太師匠版は三人組の怪談噺で盛り上がる部分があるのが特徴だが、今回は仲入り前に「幽霊の辻」があったので、それを上手く取り込みながら、オマージュになっているのも良かった。

万事世話九郎が伊八に命じて、三人組が逃げ出さないように縄で柱に括りつけられてしまうが、これも「ぐるぐる巻き!」。そういうアドリブが効いて、マンネリズムに陥らないのが素晴らしい。