阿久鯉・伯山「畔倉重四郎」俥読み⑤、そして弁財亭和泉「落語の仮面」第9話

神田阿久鯉・神田伯山「畔倉重四郎」俥読みの千秋楽に行きました。5日間、全19話を集中して聴いた達成感は、連続物の講談にしか味わえない醍醐味だろう。そういう機会を与えてくれた阿久鯉先生、伯山先生に感謝申し上げたい。

第16話「奇妙院の悪事・上」神田阿久鯉

奇妙院と権太が銀平打ちの簪を入手する巧妙な手口が興味深い。青木定右衛門の娘おはまが病死してしまったが、許婚に喜三郎という男がいて、今で言う婚約指輪のようなものなのだろう、その簪を贈って、おはまは頭に付けていた。その情報をどうやって彼ら悪党は仕入れていたのだろうか。

百箇日に、おはまの埋葬されている西光寺を訪れ、「未練がある。亡骸を見たい」と奇妙院が喜三郎を装って住職を説得する達者な口。そして、本来ならご法度の墓場を掘り返すことが許され、亡骸に抱きついて号泣する芝居の巧さ。そして、抜け目なく簪を引き抜く手際の良さ。

また、その簪を独り占めしようと奇妙院が権太に毒入りの酒を飲ませて殺害してしまうのもすごい。

第17話「奇妙院の悪事・下」神田伯山

ここも奇妙院の騙りのテクニック。僧侶に化けて、青木定右衛門を訪ね、娘さんからの伝言があると意味ありげに言う。最初は定右衛門もそんなことは信じないが、入手した銀平打ちの簪がものを言う。そして、娘おはまの霊を鎮魂するための費用として大金をせしめる。だが、その大金は完全に死んでいなかった権太が現われ全て強奪されてしまうという…。そこが奇妙院の奇妙院たる所以なのだろう。

第18話「牢屋敷炎上」神田阿久鯉

重四郎はこの奇妙院の金への執着に目を付けて、脱獄計画を実行しようとする。罪が軽い奇妙院はやがて出所できるだろう、そのときに“娑婆に埋めた千両”を掘り起こしたい、そのために牢屋に火を放ってくれ、それに乗じて自分も脱走するから、その千両を山分けしよう。重四郎に唆された奇妙院だが…。

間抜けなのは伝馬町近くの長屋に住んでいた奇妙院が火をくべて酒を飲んでいるうちに、居眠りしてしまい、寝返りを打った拍子に炎上してしまったことだ。奇妙院は焼死、だが火事は伝馬町の牢獄まで燃え広がり、重四郎の思惑は成功したかのように見えたが…。

第19話「重四郎服罪」神田伯山

牢獄炎上に乗じて逃亡しようとした重四郎だが、そうは問屋が卸さない。大岡越前守にガッチリと拘束されてしまい、脱獄失敗。さらに重四郎の犯罪についての聞き込み調査が進み、次々と立証される。鎌倉屋金兵衛、安田掃部、三田尻の茂吉、練馬の藤兵衛、熊坊主、隠亡の弥十、三五郎、紀州の金飛脚強奪の犯人。8人の殺人は重四郎も認めた。

問題は穀屋平兵衛殺害だ。証拠も証言もない。だから、重四郎は城富を喜ばすのも悔しいので、意地でも否認を続けた。だが、城富が言った「大岡様の首がかかっている」という台詞に、重四郎は反応した。俺はどうぜ死罪になる、ならば大岡を道連れにするのも面白いではないか。そして、重四郎は穀屋平兵衛殺害、および杉戸屋富右衛門への罪のなすりつけを自白した。7年前の殺人事件の真犯人が遂に判明したのである。

ここからが、面白い。大岡越前守の作戦だ。死んだと思われていた杉戸屋富右衛門が突如現われる。城富も驚いたが、重四郎はさぞ驚いたことだろう。あの小塚原の晒し首は偽首で、本人は7年間奉行所に匿っていたのだ。畔倉、完敗。

だが、重四郎の台詞がいかにも大物悪人らしくて良い。俺は好き勝手に太く短く生きて来た。お前らなんか細くて長い人生をつまらなく生きるだけだ。俺の名前は後世に語り継がれるが、お前らの名前なんか忘れ去られるだろう。そう言って、呵呵大笑する重四郎が印象的だった。

配信で「弁財亭和泉の挑戦!『落語の仮面』全十話」を観ました。今回は第9話「二人の豊志賀」だ。

立川あゆみと三遊亭花の三題噺直接対決。2人で1つの噺を順番に創っていく無限ループ三題噺という、フリースタイルラップバトルのような方式が面白い。瞬発力、創作力、アドリブ力が問われる。

お題は「トランプ」「大黒様」「さくら水産」。テーマはハラハラドキドキ。あゆみが圓朝オマージュの古典の世界観を大事にした創作を進めるが、花はキャッツアイのような少年ジャンプ的奇抜さで対抗して、熱戦が繰り広げられる。

豊志賀の父親が博奕で100両の借金を残して死んでしまった。豊志賀は吉原に身を売って100両を拵えなくてはいけないのか。だが、豊志賀が実家に帰ると、お祖父さんが大事にしていた大黒様があって、それを南蛮人が100両で買うという…。

だが、手を滑らせて大黒様を割って粉々にしてしまった豊志賀。その中に入っていた手紙には、三番蔵の地下に行けというメッセージが残されていて…。そこには地底人のカトリーヌ三世が住みついていて、人間と地底人は仲良くしようという堅い約束がお祖父さんとの間に交わされていて…。

あゆみと花が何度もボールを投げ返して創り上げた新作落語は見事なものだった。だが、勝負はあゆみが圧倒的勝利を収める。審査をした月影先生いわく、「花には新作落語家の弊害が見えた。体内時計が壊れている」と指摘。勝敗に関係なくお互いを讃え合うあゆみと花というライバルがとても輝いて見えた。