「いつぞやは」、そして阿久鯉・伯山「畔倉重四郎」俥読み③

シス・カンパニー公演「いつぞやは」を観ました。まず、加藤拓也さんの作・演出が素晴らしかった。脳天を鈍器で叩かれたような衝撃というと大袈裟かもしれないが、今の自分自身の生き方を見直せと言われているような気がした。そして、さらに素晴らしかったのは主人公の一戸役を演じた平原テツさんの演技である。当初は窪田正孝さんが演じる予定だったが、病気となり、キャストが変更になったのだが、それを全く感じさせない名演であった。

物語はこんな感じだ。一戸は昔一緒に劇団活動をしていた松坂の芝居をフラッと観にやって来た。久しぶりの再会。そこで一戸は自分が大腸ガンのステージ4であることをサラッと告げる。それをきっかけに昔の劇団仲間が集まった。旧友たちは衝撃を受けたが、一戸は終始笑顔を絶やさず、重く受け止めないでくれと話す。一戸のことを気にかけながらも、それぞれの悩みや現実を抱えながら、それぞれの人生を歩む仲間たち。そして、一戸は自分の人生を芝居にしてほしいと松坂に頼む…。

まず考えたのが、僕がステージ4のガンになったとしたら、笑顔でそのことを伝えることができる友人が何人いるだろうか、ということだ。僕のことを、僕のこれまでの歩みを含めてよく判っている人間が親族以外にどれだけいるだろうか。

後悔ばかりの人生だった。どうしてあのときにこんなことをしていたのだろう。なぜあのときにこういうことをしなかったのだろう。小学生まで遡って、中学、高校、大学、そして社会人生活を振り返って、自分を責めてばかりいる。今も前を向いて歩かなくちゃいけないのに、後ろを振り向くことしばしばだ。

そして、その後悔は自分を否定するばかりでなく、自分の周囲にいた友人をも否定している。自分らしさとは何か、確固たる意思を貫くことができずに生きてしまった。いつも周囲の人間の顔色を見たり、物真似をしたりして、ふらついた男だった。だから、今となっては昔の友人とは自然と疎遠になってしまった。

だが、考え直してみたい。人間というのは自分独りでは生きていけない動物だ。現在の自分があるのも、周囲にいてくれた友人のお蔭なのではないか。後悔するどころか、本当は彼らに感謝しなくてはいけないのではないだろうか。そういう過去への畏敬があってこそ、現在を前向きに生きられるのではないだろうか。

この演劇を観て、少し自分の生き方を見直すことができたような気がする。

夜は神田阿久鯉・神田伯山「畔倉重四郎」俥読みの三日目に行きました。段々と重四郎の悪事にボロが出て、罪が露見していく様子が興味深い。

第9話「三五郎殺し」神田阿久鯉

自分の正体がバレる要素は徹底的に消しておきたい。重四郎は考えたのだろう。悪事の馴れ初めから一緒にいた三五郎の存在を厄介に思い、ついに殺害に及ぶ。品川で新しい遊郭を経営したいので、一緒に物件を見てくれないかと誘い、その道中の鈴ヶ森で斬りかかり、三五郎は絶命。そのときの言い争い、「三五!」「重四!」の声が響いて、これを乞食が聞いていたことが後々の伏線となる。

第10話「おふみの告白」神田伯山

三五郎が死に、再び大黒屋の遊女をしていたおふみが、杉戸屋富右衛門の倅の城富と出会うことで運命が大きく転がる。女を知らない城富を客に取ったおふみは、この初心な男を愛おしく思ったのだろう。お互いに心を寄せ、ついには所帯を持つまでになるのだから面白い。

そして、おふみが「墓場まで持っていこう」と考えていた“重右衛門の秘密”を城富に話したことで物語は大きく展開する。三五郎は酔った勢いで、重右衛門こと重四郎は何人も人間を殺害していることをおふみに話していた。そして、その一人目に殺害したのが幸手の穀屋平兵衛で、その罪を杉戸屋富右衛門になすりつけていたことも!城富は興奮したろう。真の下手人を遂に見つけた!と。

第11話「城富奉行所乗り込み」神田阿久鯉

穀屋平兵衛を殺したのは畔倉重四郎だった。城富は南町奉行所の大岡越前守に報告に行く。何せ、越前守が首を賭けた案件である。おふみから聞いた仔細を述べ、さらにおふみも呼び出されて同様の証言をする。越前守は慎重に事を運ぶため、相州を管轄する関東郡代の伊奈半左衛門に根回しをする。さあ、動き出した。

第12話「重四郎召し捕り」神田伯山

大黒屋に十数人の宿泊客が大挙してやって来た。これも越前守と伊奈半左衛門が策略した罠だ。客同士の諍いがあり、大黒屋重兵衛が仲裁に入ると、逆にその客は重右衛門の胸ぐらを掴む。そして、耳元で囁く。「御用だ」。気がつくと、周囲の宿泊客は全員十手を持っていて、一斉に「御用だ!御用だ!」と取り囲む。これには重右衛門こと重四郎も驚いただろう。店を飛び出し、屋根の上に逃げるも、それも大勢に追い詰められ、ついに重四郎はお縄となる。さあ、召し捕られた重四郎は大岡越前守とお白州で対面となる…。明日が楽しみだ。