日本浪曲協会九月定席四日目、そして阿久鯉・伯山「畔倉重四郎」俥読み①

木馬亭で日本浪曲協会九月定席四日目を観ました。早めの昼食を翁そばで食べてから木馬亭に行こうと思ったら、臨時休業だった。残念。君塚食堂で冷やし中華を食べて入場した。

「甚五郎 京都の巻」東家志乃ぶ・東家美/「魚屋本多」東家恭太郎・水乃金魚/「貝賀弥左衛門」富士綾那・沢村博喜/「野狐三次 木っ端売り」東家一太郎/中入り/「若き日の大浦兼武」国本はる乃・沢村道世/「金の簪」田ノ中星之助/「男の花道」浜乃一舟・東家美/「男一匹 天野屋利兵衛」天中軒雲月・沢村博喜

綾那さんの義士伝がとても良かった。江戸幸の若旦那の寅吉の粗忽がいけない。3両をくすねたという濡れ衣を着せられて、品川宿の武蔵屋長兵衛の娘お捨は身投げしようとしたのだから。でも、その身投げを救って、3両を渡した心あるお武家様によって、命は救われた。その恩人を長兵衛父娘が血眼になって探していたら…。四十七士が討ち入り本懐を果たして、泉岳寺に向かう途中で、その恩人を見つけるというドラマチック!美談が美談を呼ぶ。

はる乃さんは武春師匠を思い起こす演題。空腹が耐えられずに巡査を志願した兼武がユーモラスに描かれる。でも、とても人情味のある男だ。料亭の屏風に酔客が悪戯描きをして困っているという案件、酔客を見逃してやった上に屛風代金を支払ってやるとは心優しい。でも、その額40円!月給2円70銭の兼武は月賦1円で3年以上かけて完済するという律義。その酔客が後の岩倉具視で、このことが巡り巡って、兼武がトントン拍子に出世するという…。いい話だあ。

雲月先生、渾身の一席。7歳の息子が火責めに遭おうとも、「お前には血も涙もないのか」と言われようとも、赤穂義士のために決して口を割らない天野屋利兵衛の漢気。「男と見込まれたからには決して白状致しません。これくらいで白状するようでは頼まれた甲斐がない。天野屋利兵衛は男でござる!」。身体を大事にしろと牢へ戻るように言う松野河内守も人情に厚い名奉行だ。

夜は神田阿久鯉・神田伯山「畔倉重四郎」俥読みの第一夜に行きました。このお二人の「畔倉重四郎」俥読みは2019年にも行われていて、その時とはテレコの順番で今回は読むことになる。

第1話「悪事の馴れ初め」神田阿久鯉

元は武士の身分で、剣術の師範でもあった重四郎が裏社会の悪に染まっていく発端だ。幸手の穀屋平兵衛の命を救った父の重右衛門とともに道場を開き、昼は手習、夜は剣術の指南という真っ当な武士だったのだが…。父を19歳のときに亡くし、道場を賭場として貸すようになってから悪の道へと転がり込んでいく様が見て取れる。火の玉の三五郎という悪友とともに、自らも博奕にハマって、堅気からヤクザな世界に入ってしまう…。

第2話「穀屋平兵衛殺害の事」神田伯山

恩人だったはずの平兵衛やその友人の杉戸屋富右衛門を憎く思い、ついには殺害まで犯してしまう重四郎の転落のきっかけは恋心というのが人間的だ。平兵衛の娘のおなみに一目惚れ、恋文を渡したが、ひょんなことから富右衛門に読まれてしまう。そして、そのことを平兵衛にも知られ、「娘をかどわかすのか」と出入り止めにされてしまう…。これを恨みに思った重四郎は、平兵衛を殺害し、尚且つ、それを富右衛門の犯行に偽装工作する。悪党ぶりが段々出てくる。

第3話「城富歎訴」神田阿久鯉

重四郎は平兵衛の死骸の横に、三五郎から手に入れた富右衛門の煙草入れを置いた。それに加えて、富右衛門のアリバイが完全に証明されないこと、持っていた刀に血が付いていたことなどから、関東郡代の伊奈半左衛門によって富右衛門は殺人容疑にかけられた。富右衛門は無罪を主張したが、激しい拷問によって虚偽の自白をしてしまう。

これが悔しくて堪らない息子の富之助の執念がすごい。彼は生まれつきの盲目で、城富という名で按摩をしていたが、腕が良く、得意客の安藤対馬守を通じて、大岡越前守に再吟味してもらうまでこぎつける。だが、富右衛門は伊奈半左衛門のときと同様に正直に答え、大岡越前守も調べを尽くしたが、無罪とはならず、再び牢の中へ。

第4話「越前の首」神田伯山

城富の執念がさらにヒートアップする。千住小塚原で晒し首になっている首に、「杉戸屋富右衛門」という名札があったのだ!怒りは爆発し、越前守の許に行って、罵声を浴びせる。だが、越前守は「では、真犯人は誰だ?」と逆に問う。城富は「必ずや真犯人を見つける」と言い、見つかったときには「大岡越前守の首をもらう」という約束まで取り付ける。すごい。そして、城富の犯人捜しが始まる。と同時に、越前守にも何か考えがあるように匂わせた終わり方がとても気になる。