浅草演芸ホール 禁演落語の会

浅草演芸ホール八月下席三日目夜の部に行きました。今席は仲入り後からが「禁演落語の会」である。10数年前から「戦争体験を忘れない」を目的に八月下席で実施されるようになったとか。

「雑排」瀧川はち水鯉/「芋俵」三遊亭あら馬/漫才 おせつときょうた/「尿瓶」東生亭世楽/「飽食の城」古今亭今輔/ウクレレ漫談 ぴろき/「明石飛脚」春風亭昇也/「鮑のし」三遊亭とん馬/曲芸 ボンボンブラザース/「持参金」三笑亭茶楽/中入り/解説 長井好弘/「紙入れ」春風亭昇羊/「悋気の独楽」桂伸衛門/「磯の鮑」桂米福/「目薬」立川談之助/歌謡漫談 東京ボーイズ/「蛙茶番」三遊亭遊三

戦時下の昭和16年に演芸関係者が話し合って、本法寺に「はなし塚」を建立し、そこに“埋めた”のが禁演落語だ。およそ400席の落語について時局に合う、合わないという判断を下して、甲乙丙丁の4段階に分け、丁に当たる53席を「禁演落語」として“自主規制”したわけである。

廓噺、間男を扱った噺、不道徳な噺、エログロ…。要は兵隊さんがお国のために戦っているのに、不謹慎な落語はやめておこうということだ。終戦を迎え、昭和21年9月30日に、はなし塚に埋められた台本は掘り起こされ、法要され、「禁演」は解禁となった。戦争は人命を奪うことは勿論だが、庶民の娯楽文化さえも奪ってしまう。そのことを胸に刻む意味でも、私たちは忘れてはいけない史実だと思う。

昇羊さんの「紙入れ」は、おかみさんがねっとりと新吉を誘い、“魔性の女”という言葉を想起させる良い高座だった。この噺をあっさりと演じるのが粋とする風潮もあるようだが、僕はおかみさんが若い男と間男する現場をしっかりと演じてほしいと個人的に思う。あくまでもフィクションの世界なのだからこそ、である。

伸衛門師匠の「悋気の独楽」は、妾を扱った噺だから禁演なのか。噺そのものには何も不謹慎なところはないし、江戸時代、いや明治、大正、昭和に入っても、愛人とか2号さんとか言葉を変えて、そういう文化があった。僕が小学生のときには、祖母に連れられて近所の「お小遣いをくれるおばちゃん」のところに遊びに行った。祖母は「あのおばちゃんは社長さんのお妾さんなんだよ」と教えてくれた。

米福師匠の「磯の鮑」は廓噺。女郎買いの師匠がいると嘘をついて吉原未経験の男をからかうという内容もあまりよろしくないのかもしれない。ただ、今回聴いた噺は頓珍漢な男が花魁に煙たがられて逆に5円貰って儲かるというサゲになっていた。何人もの「磯の鮑」を聴いているが、これは初体験だった。

談之助師匠の「目薬」はお尻が出てくるからかしら。おかみさんのお尻に耳かき一杯の目薬を付ける、その描写がエロなのだろうか。不謹慎だとは思わないが。

遊三師匠の「蛙茶番」は、サゲに繋がる半ちゃんの男性器を想起させるところがエロなのだろう。これは判る。禁演のテーマとは逸れるが、きょうの高座は「天竺徳兵衛」の芝居の部分を鳴り物入りで、芝居台詞もしっかりと演じてくれて、とても良かった。