納涼歌舞伎 次郎長外伝「裸道中」

八月納涼歌舞伎第一部を観ました。「次郎長外伝 裸道中」と「大江山酒吞童子」の2演目。「裸道中」はこれまで新国劇などで昭和30年代に上演された台本を今回初めて歌舞伎化したものだそうだ。

博奕に溺れて貧乏暮らしの勝五郎(中村獅童)とみき(中村七之助)の夫婦が、10年前に世話になった清水次郎長(坂東彌十郎)に恩義を感じるがゆえに、赤貧洗うが如しの有り様を取り繕いながら、次郎長一行をもてなそうとするところが何とも気持ち良い。

一銭もないのに見栄を張って、酒や食べ物を調達しろと女房に命じる勝五郎。女房みきも何とかしようと奔走するのが甲斐甲斐しい。次郎長一行が寝静まった後、家の裏手でみきは「借金を頼んでも断られるに決まっているから、知り合いの大工と植木屋に鋸と鍬を借り、それを質屋に入れて金に換えた」と勝五郎にネタばらしをする。博奕のために銭に替えられるものは全て売り尽くしている中での苦肉の策に夫婦愛を感じる。

勝五郎はさらに次郎長に対し、たとえ僅かでも草鞋銭を渡さなければ顔が立たないと言う。さて、どうするのか?驚いた。次郎長たちが脱いだ衣服を質に入れ、それを元手に博奕を打って、一山当てると言うのだ。それじゃあ泥棒同然だと、みきはたしなめるが、勝五郎は言う事を聞かない。ついには次郎長を思う勝五郎の心に折れ、「これをきっかけに、ヤクザから足を洗ってほしい」と懇願する。

だけど、その博奕にも負けて、すっからかんで勝五郎は帰ってきた。もはや手詰まりだ。勝五郎は次郎長への詫びに死ぬ覚悟をする。これに対し、女房のみきは自分が宿場女郎になって身を売り、その金で次郎長たちの着物を取り戻してほしいと言い出す。何という夫婦愛だろう。

この話を全て聞いていた次郎長が現われたときの対処がカッコイイ。「勝五郎の女房が身売りした金で着物をのうのうと着るわけにはいかない」。無闇に見栄を張る勝五郎を成敗すると言って、横っ面を張り倒す。そして、女房のお蝶(市川高麗蔵)と子分たちを呼び出す。

そこに現われた子分たちは次郎長同様に裸に脇差を携えた姿、お蝶も煎餅布団を体に巻き付けた格好だ。次郎長の言い分が良い。「生まれた時はみんな裸だ」。そう言って、勝五郎夫婦を気遣い、鼻歌まじりで旅立っていく。

勝五郎はこの後、次郎長の温かい気持ちに感じ入り、博徒から足を洗い、堅気として真面目に働いてくれたらと個人的に思った。義侠心に溢れた男たちの心の通い合いに痺れた芝居だった。