遊雀印、そして渋谷らくご しゃべっちゃいなよ
「遊雀印~三遊亭遊雀独演会」に行きました。「干物箱」「藪入り」「小間物屋政談」の三席。謳い文句に“掘りだし噺あれこれ”とあるように、随分昔に演じていたが、最近は全く演らなくなってしまった噺をもう一度掘り起こして、持ちネタにしようという意欲的な会だ。師匠が「独演会ではなく、勉強会ですから」とおっしゃっていた。きょうは「干物箱」と「小間物屋政談」がいわば蔵出し。
「干物箱」は二ツ目のとき頻繁に掛けて受けていたのに、どういうわけか真打になってからは演らなくなってしまったと。そのときの録音テープをお持ちで、ワンワン受けていて、勢いがある、もうああいう風にはできないとおっしゃっていた。
若旦那・銀之助の部屋の机の引き出しから花魁から貰った手紙を善公が見つけるが、その手紙には善公の悪口が並べられていて、読んでいるうちに段々と腹が立ってきて興奮して怒鳴ってしまう。これに気がついた銀之助の親父が二階に上がってきて善公が身替りをしていたことがばれてしまう型。遊雀師匠が“一人気違い”の愉しさと言っていたが、まさにそれで、お腹が痛くなったと嘘をついて薬を持ってきた父親にばれる型よりもそこが面白い。
ただ、若旦那の身替りをする善公と父親の掛け合いで、ばれそうでばれないやりとりというのも、この噺の肝だと僕は思っていて、若旦那から聞かされていない無尽のことや干物のことを何とか切り抜ける善公のドキドキ感も大切だと思う。
その意味で、若旦那が父親の代わりに句会に行ったときのことを訊かれるかもしれないからと、善公に仕込みをする部分を個人的には是非入れてほしい。巻頭の句「親の恩夜降る雪も音もなし」、巻軸の句「大原女や年新玉の裾流し」。これが入ることで、「干物箱」はより愉しくなると思うのだが。
「小間物屋政談」。遊雀師匠は2つに力点を置いていた。一つは大家の粗忽な性格。小田原に藤助を伴って行き、遺体が相生屋小四郎であるかをちゃんと確認しなきゃいけないのに、本人だと決めつけていて、藤助が「顔が違うような気がする」とか「背がこんなに高くなかったような気がする」とか言うのを無視して、小四郎は死んだものにしてしまった。
その上、小四郎の女房おときに再婚を勧め、せめて一周忌までは待ってくださいというおときの意見も聞かずに、四十九日も済ませぬうちに、小四郎の従兄弟の三五郎と夫婦にしてしまった。これがそもそもの間違いのはじまりであり、この噺の一番の悪者を探すとしたら、大家さんだ。
二つ目の力点は、気が進まなかった再婚なのに、いざ一緒になると、おときと三五郎が物凄くラブラブなことだ。二人のイチャイチャぶりを嫌と言うほど、師匠は熱心に描いていた(笑)。そこへ小四郎が荷物を背負って帰ってきたから、もう大変だ。
困った大家さんは、おときに「先代の小四郎と当代の三五郎のどちらを選ぶか」と問い、おときはあっさりと三五郎を選ぶのだから、現金なものである。でも、これによって結果的には小四郎が二代目若狭屋甚兵衛に収まり、美貌のおよしと三万両という身代を手にするのだから、良かった、良かった。
配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ」を観ました。若手噺家5人が新作落語をネタ卸しする熱量の高い隔月開催の落語会。これは見逃せない。
三遊亭ごはんつぶ「墓女」
墓場に夜中に現れ、墓の前で何かをしている女性がいると子供たちの間で噂になっている“墓女”。独特のクシャミから、その正体が自分の母親ではないかと勘付いた息子は…。家庭菜園が趣味だった母親が墓の周りに芋を植えて栽培していたとは!柔軟な発想、若い感覚、こういったセンスが新しい創作落語の時代を築いていくのだろう。
三遊亭ふう丈「北の区から」
倉本聰先生の名作「北の国から」のオマージュと言っていいのだろうか。「…わけで」口調が懐かしい。39歳にしてパラサイトでニートな息子ジュンを港区の母と北区の父が温かく見守る。コンビニのアルバイトに必要な“自分らしさ”とは?「お詫びの鮑」に、人としての成長の証を感じるという父親に不思議な気持ちになる。
昔昔亭A太郎「ひらいもの」
100万円を道で拾って、警察に届けたが、落とし主現れず、自分のモノになってしまって困惑する女性。一方、その話を聞き付けて、落とし主を名乗って、100万円を一旦は自分のモノにするが、また落としてしまう男性。結局は正直者に神は宿るということなのかしら。
林家つる子「茶屋娘四十七士 笠森お仙誕生」
浮世絵師の鈴木春信が描いた笠森稲荷近くの水茶屋の看板娘お仙が評判となったという史実を基に創作しようという心意気が好きだ。それを現代のアイドルに寄せて物語を膨らませるところ、とてもセンスがある。突然、世の中の男どもが騒ぎ出すことで、それは嬉しいことなのかもしれないが、逆に戸惑いや窮屈もあるだろう。そこをコミカルかつシリアスに描くことに天賦の才を感じる。
立川笑二「すきなひと」
本当にこの人の発想は凄い。シマブクロアヤカを7年間、ストーカーしている男に抜かりはない。「彼女は俺のこと知らないから」「勝手にこの家に住んでいる」「彼女は俺の存在に気付いていない」等々。プロフェッショナルだ。その上で、その男の幼馴染がアヤカに4年間ストーカーされているという真実は衝撃だ。それも性質の悪いストーカーで、これまで付き合っていたリサやヒトミが行方不明になっているのはそういうことだったのか!と。最後のタクシーに同乗したサイトウユカリ落ちに思わず膝を打った。傑作!