落語教育委員会、そして東海道四谷怪談3夜 第一夜

落語教育委員会に行きました。携帯電話電源オフ啓蒙コントは「敬老会謝金編」。人の口座(高座)を聞くときは携帯電話を切りましょう。きょうは3人がそれぞれ充実した高座でとても良かった。

三遊亭歌武蔵「唐茄子屋政談」

唐茄子を担いで売り歩くなんてみっともない、という徳三郎に「そういうお前に売られる唐茄子の方がよっぽどみっともないと言うわ!」という台詞が響いた。汗をかいて身銭を稼ぐことの素晴らしさを、言葉ではなく身体で覚えさせようとする叔父さんの心遣いにグッとくる。お天道様はついて回るが、米の飯はついて回らないのだ。

徳三郎が転んでしまって、ぶちまけた唐茄子を拾って近所の顔見知りに次々と売ってくれた江戸っ子のあんちゃん、唐茄子を一ついくらで売ればいいか、徳三郎が訊いてこなかったので、近所の婆さんに“相場”を訊いて、「一つ四文だろう」と教わるところ、江戸の町人たちの温かさみたいなものを感じた。

誓願寺店で徳三郎の弁当をじっと見つめていた長屋の子ども、「もう五日も何も食べていない」と聞かされて、徳三郎は叔父さんに吾妻橋で拾われるまで三日何も食べていない“ひもじさ”を知っているだけに、売り溜めを全部おかみさんに渡してしまったのだろう。これも人情だ。

柳家喬太郎「任侠流山動物園」

白鳥作品が良く出来ているのに加えて、様々な動物の形態模写を丁寧に演じることで、高座にリアリティーというか、漫画のような絵が浮かんできて、とても楽しい。流山動物園の豚次、牛太郎、チャボ子は勿論、上野のパンダのパン太郎親分がふんぞり返って竹を食っている仕草とか、虎雄が歩く足の運びとか、象の政五郎爺さんの鼻を振り上げるところとか、細部にこだわっているのが“柳家の芸”。

豚次が上野動物園に行って、パン太郎親分に集客のために客演してくれないかと尻を虎雄に噛みつかせてまでして頼んだが裏切られるところ、「新幹線が落ちたら、地下に埋めるような国だから」とか「世界動物保護基金の黒柳徹子が許さない」とか、細かいギャグがいつまで経っても色褪せないのもいい。

あと、大好きなのは流山動物園の園長が“ドリトル先生の末裔”だから動物と話が出来るという理屈。皆、必死に特訓して、チャボ子は「寿限無」、牛太郎は「唐茄子屋政談」を演れるようになって、見物客が一気に押し寄せたというのも面白いよなあ。

三遊亭兼好「応挙の幽霊」

田舎の農家の納屋で見つけた掛け軸を1円で買い取り、贔屓客に「応挙の幽霊画に違いない」と触れ込み、相手も「応挙ではないが、偽物にしては良く描けている」と評価して、結果100円で売り付けて満面の笑みの道具屋。

「儲かった」と、その幽霊画を目の前に置き、ご機嫌に晩酌していると、絵の中から幽霊が飛び出してきて…。そこから怪談っぽくなるのではなく、寧ろ陽気な美人の幽霊と会話するのがとても愉しい。♬三途の川さえ棹さしゃ届く なぜに届かぬわが思い~、幽霊が都々逸を唄い、挙句の果てには道具屋と夫婦約束をするという…。講談の「応挙の幽霊画」とは真逆の滑稽噺になるところが、落語の素敵なところだ。

夜は三越前に移動して、「東海道四谷怪談3夜」第一夜に行きました。講談に従来からある「四谷怪談」ではなく、鶴屋南北作の歌舞伎を演芸作家の土居陽児さんが全9話の講談に仕上げたものだ。それを田辺いちかさんと神田紅純さんが俥読みする会。きょうは、第1話から第3話まで。

第1話「浅草雷門」/田辺いちか

暮らしに窮していた四谷左門が辻謡いで銭を稼ごうとしたら、そこを縄張りにしている乞食に絡まれ、難儀する。それを民谷伊右衛門が助ける。左門の娘お岩が伊右衛門の妻なので、左門は伊右衛門の義父に当たるのだが、お岩との仲を巡って左門が難癖を付け、そればかりでなく浅野家の御用金を盗んで結納金に当てた疑いも掛ける。伊右衛門にとって、左門は目の上のたん瘤といった体だ。

また、乞食が吉良の用人である伊藤喜兵衛に物乞いをする。小銭を与えると、その乞食は礼をしたいから、屋敷の住所を教えて欲しいと尋ねる。その後、この乞食は貰った小銭を脇に棄ててしまったので、喜兵衛は「こいつは吉良方の動向を探っている浅野方の人間に違いない」と呼び止め、責め立てる。それを救ったのは、通行人の小間物屋。実は乞食は奥田庄三郎で、小間物屋は佐藤与茂七、どちらも赤穂浪士だった。何とか誤魔化し切り、吉良側に渡りそうになった廻し文、実は連判状も手元に戻すことができた。

第2話「地獄宿」/神田紅純

佐藤与茂七の妻であり、四谷左門の養女であるお袖は参道の楊枝見世で売り子をしている。奥田庄三郎の家の小者である直助は、その見世でお袖のことを気に入る。向かいの店の女に訊いてみると、昼はここで働き、夜は浅草花川戸の通称地獄宿で売春婦をしているという。直助は懇ろになろうと、その地獄宿に行く。

お袖は父の左門の暮らし向きを良くしようと、仕方なく売春婦をしていたが、客の手は握っても決して一つ寝はしないと決めていた。だから直助が迫っても、寸でのところで拒絶した。次に入ってきた客は暗がりで顔が良く判らなかった。店番の爺さんが行燈を持ってくると、何とその客は夫の与茂七だった!お袖はなぜこんなところで働いているか、客とは一つ寝していないことも含めよく説明し、何とか与茂七の理解を得た。その様子を外から聞いていた直助の腹の虫は収まらない。

第3話「浅草裏田圃」/田辺いちか

連判状を取り戻し、安堵した庄三郎。そこへ与茂七がやって来る。この連判状を大石様に届けるため、庄三郎は乞食の格好では良くないから、与茂七と着物を取り替える。それが仇となった。お袖に横恋慕している直助は与茂七が憎い。浅草裏田圃で待ち伏せして、与茂七を襲い、滅多切りにした。だが、それは与茂七の着物を着た庄三郎だった。

また、伊右衛門は左門の存在が邪魔なので、これまた浅草裏田圃で殺害してしまう。直助はその現場を見ていた。そして、お互いに口裏を合わせようということになる。つまり、与茂七と左門が争って、相討ちとなって両者が死んだことにしたのだ。

丁度、そこに伊右衛門の妻・お岩と与茂七の妻・お袖の姉妹が一緒に通り掛かる。そして、親である左門と与茂七が殺されているのを目撃する。しかし、伊右衛門と直助は巧妙な作り話をしてお岩とお袖も信じてしまう。ここから二人の運命は狂い始めるのだ。