兼好・王楽・萬橘 三人咄

新宿末廣亭七月余一会「兼好・王楽・萬橘 三人咄」に行きました。五代目圓楽一門会に所属する噺家さんは基本的に都内4つの定席に出演できないが、末廣亭さんは落語芸術協会の興行に特別枠を設けるなどの配慮がある。この余一会はその最たるもので、圓楽一門会を支える三人の会。こういう器量の大きさは落語ファンにとってとても嬉しくて、有難いことだ。

「初天神」立川幸路/「富士詣り」三遊亭萬橘/「うつけもの」三遊亭王楽/「三年目」三遊亭兼好/「酢豆腐」三遊亭萬橘/中入り/鼎談/「三井の大黒」三遊亭王楽/俗曲 桧山うめ吉/「鰻の幇間」三遊亭兼好

兼好師匠の「三年目」。女房が亡くなって四十九日になると、生前に夫婦の間で話していたように、本所の伯父さんが案の定「後添えを持て!」と凄い勢いで勧めてくるのがとても可笑しい。婚礼の晩、八ツの鐘を合図に幽霊となって元女房が出てくるはずが…。ようやく三年経って出てきて、「話が違う!」と訴える亭主の気持ちもよくわかる。

萬橘師匠の「酢豆腐」。昨夜に食べ残した豆腐、預かっていた銀ちゃんが持ってきたときの、黄色くて毛が生えて腐っている豆腐が匂うように目に浮かぶ。この豆腐をタネに、皆が嫌いな伊勢屋の若旦那をからかおうという趣向が暑気払いという発想は面白い。「昨夜はもてたんでしょう?」などと持ち上げておいて、若旦那をその気にさせる町内の若い衆も悪い奴らだ。

食通と煽てられ、腐った豆腐を見て「懐かしい」「初恋の味がする」と言う若旦那も若旦那。レンゲで掬って、鼻をつまんで、口の中に放り込み、悶絶する様子は萬橘師匠ならではの表情の楽しさがある。酢豆腐は一口に限りヤス!

王楽師匠の「三井の大黒」。ポンシュー、実は左甚五郎の“能ある鷹は爪を隠す”が良い。政五郎親方の配下の大工たちが、ポンシューの腕を甘く見て、板のカンナかけを命じ、二枚の板が引っ付いて離れないところ、流石名人。運慶の彫った恵比寿様と対になる素晴らしい大黒様を彫り上げ、ちっとも威張らない甚五郎の謙虚なところに好感を抱く。

兼好師匠の「鰻の幇間」。騙されたと判ってからの幇間・一八が鰻屋の女中に悪態をつくところが最高に可笑しい。酒はぬるい、というか不味い!頭にピンとくる銘酒ミツカン(笑)。お銚子の柄が、猿、雉、犬ときて、次がなぜか花咲か爺さん!猪口の一つは天政(天婦羅屋?)、もう一つは升で「祝・真打昇進」とある。

漬物のキュウリと奈良漬けがなぜか繋がっている。問題は鰻本体。これ、鰻じゃないでしょう?太刀魚だろ!それに呼応して、女中がシーッと人差し指を鼻の先にやるのが可笑しい。座敷に上がったときに、子どもが宿題をしていたのは、まあ許すとしても、床の間の掛け軸が「四面楚歌」とは!勘定書きが9円25銭で、「お伴の方が上を四人前持って行かれました」に、一八が「俺が弟子入りしたいよ。どこに住んでいるんだろう」と言うと、女中が「センのところでは?」と言うのには最高に笑った。