春風亭一之輔のドッサりまわるぜ、そしてけんこう一番!

「らくごDE全国ツアー 春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2023」に行きました。「蝦蟇の油」「癇癪」「たちきり」の三席。開演前の影アナも一之輔師匠が担当し、爆笑を呼ぶ。出囃子は“夏らしく”加山雄三の♬海 その愛。幼少時、歯磨き粉のデンターライオンのCMを観て、加山雄三を「トラネキサムさん」だと思っていたというエピソードも。一之輔師匠はマクラが自然体でとても良いなあ。

「蝦蟇の油」。泥酔して壊れてしまった油売りが実に愉しい。所詮、蛙の汗。鋸山、マザー牧場、君津市の寺の虎脱走騒動…。ホワッツ・ハッポン?日本刀で紙切り、人間国宝の雲助師匠の出囃子が鳴り、物真似まで飛び出した!益々一之輔カラーが濃くなっていく、この素晴らしさよ。

「癇癪」。前半のガミガミと小言を言いまくって威張り散らす亭主に嫌味がなく、寧ろ人間的な可愛さを感じるのが素敵だ。そして、実家に帰った静子をそっと諭す父親の優しさにキュンとなる。煙くともやがて寝やすき蚊やりかな。使うは使われる。翌日の亭主の機嫌良い「よーしっ!」が清々しい。

「たちきり」。芸者の代金は時間制、線香の本数で計った。若旦那と小久はお互いに惚れ合っていた、二人の間には真実の愛があったはず。なのに、線香が立ち切れて、三味線が鳴りやむとは…。何という皮肉だろう。

芸者に入れあげた“金食い虫”の若旦那は百日の蔵住まいを命じられた。それを知らずに、小久は何通もの手紙を出しても若旦那が来てくれないことに不安な気持ちになる。お芝居の約束忘れたのかしら…、嫌われちゃったのかしら…、捨てられちゃったのかしら…。食べるものが喉を通らず、次第に瘦せ細ってしまった小久の純情に胸が締め付けられる。

若旦那が誂えた二人の紋が並んだ比翼の紋の三味線が届いて、やっとの思いで一撥叩いて、あの世に逝ってしまった小久の姿が脳裏に浮かぶ。そのことをかあさんから聞いた若旦那は蔵を蹴破ってでも、駆け付ければ良かったと後悔するが後の祭りだ。三七日の法要に小久が若旦那が好きだった黒髪を弾いたことで、この世に未練を残さずに成仏できたとしたら、それがせめてもの供養になったのかもしれない。

「けんこう一番!~三遊亭兼好独演会」に行きました。「浮世床~将棋・夢」「天災」「大山詣り」の三席。

「大山詣り」の熊さんの乱暴ぶり、その後坊主にされたことへの仕返し、これらはどう考えても悪質で、落語の上のことだから許せるが、これが本当だったら許せないだろう。

明日は江戸という前の晩の宿。酒を飲んで酩酊した熊が、二人入ると窮屈な湯船に無理やり三人目として入ってくるだけでも迷惑だが、その湯の中で屁をして、「俺の屁を飲んだな!」と逆に被害者である半ちゃんと源ちゃんを風呂桶でポカポカと殴るという描写を聞くだけで、本当に失礼な奴だと思う。

だから、半ちゃん源ちゃんの二人組が、中二階で寝ている熊の野郎を決め式通りに坊主にしちゃおうというのは、至極当然のことだ。熊の頭に酒を吹きかけ、自慢の丁髷を落とし、剃刀でツルツルにしてしまうのは痛快だ。熊を除いたオヤマの一行が宿を出た後に、女中のお清と女将さんが熊を見付けて、「ほおずきのお化け!」と叫ぶのも愉しい。

これを根に持った熊公の仕返し。オヤマに行った長屋の連中のかみさんを全て集めて、「船がひっくり返って、自分以外は誰も助からなかった」という作り話に、先達さんのおかみさんが「この人はホラクマ、センミツだから」と最初は信じなかった。だが、熊の芝居が一枚上手だ。「人の生き死にで嘘をついたこともあった。だが、今度ばかりは本当だ!」とほっかむりしていた自分の坊主頭を逆に利用して、かみさん連中を信用させる手口、あくどい。

そして、“菩提を弔う”と言って、かみさんの頭をズラッと並べて、端からクリクリと剃刀で綺麗に丸坊主にしてしまう。女の髪は命の次に大事なもの、それを嘘をついて、自分の女房を残して全員尼さんにしてしまうとは、許せない。

先達さんが到着して、百万遍を唱えているかみさん連中を見て、「オヤマが無事に済んで、皆さん、お怪我(毛が)なかった」と笑い飛ばすのは余程人間が大きくできているのだろう。この後、長屋の連中は熊公をボコボコにしても良いと思う。

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