【大相撲名古屋場所】豊昇龍が涙の初優勝、そして大関昇進が確実に

大相撲名古屋場所千秋楽、優勝決定戦で関脇・豊昇龍が平幕の北勝富士を下し、初優勝を果たすと同時に、来場所の大関昇進を確実にした。

14日目を終わって、3敗で豊昇龍、北勝富士、そして新入幕の伯桜鵬が並び、優勝はこの三者に絞られた。まず、北勝富士が錦木を引き落としで破った。そして、結び前の一番で豊昇龍と伯桜鵬が直接対決、豊昇龍が上手投げで勝利を収め、賜杯の行方は12勝3敗の北勝富士と豊昇龍の優勝決定戦で決まることになった。立ち合いは互角だったが、頭一つ低かった豊昇龍に対し、引いてしまった北勝富士をつけこむように豊昇龍が前に出て、押し出して、優勝を決めた。

取り組み前まで険しくて、相手を睨むような豊昇龍だったが、優勝が決まった瞬間に表情が崩れ、涙が溢れた。そして、賜杯を抱くときには飛び切りの笑顔となり、彼の人間的な部分が見られて嬉しかった。正直に言えば、豊昇龍や伯桜鵬は今後も優勝のチャンスが何度も訪れるだろうから、ベテランの北勝富士に優勝してほしいと個人的には思ったが、勝利の女神は元横綱・朝青龍の甥っ子に微笑んだ。

今場所の土俵は平幕力士が盛り上げたと言っても過言ではないだろう。東前頭筆頭の錦木が二日目に横綱・照ノ富士を破って金星を挙げると、その後も大関獲りを狙う三人の関脇に連勝し、11日目まで優勝争いのトップに立った。その後、幕内在位40場所を数える北勝富士がトップの座を奪い、13日目まで守った。そして、最終盤には新入幕の落合改め伯桜鵬がこの二人を下して、豊昇龍とともに優勝争いに加わり、愛知県体育館は連日の満員御礼となった。

そのことは三賞受賞者が歴代最多の7人(のべ8人)に上ったことに象徴されている。横綱、そして三関脇に勝った錦木は文句なしの殊勲賞。初土俵から103場所での三賞は史上最も遅い受賞である。北勝富士も敢闘賞を受賞した。そして、伯桜鵬は敢闘賞だけでなく、左四つの相撲の巧さが評価され、技能賞も受賞。初土俵から4場所での三賞受賞は歴代最速、とても19歳とは思えない落ち着いた取り口は末恐ろしい怪物、一気に横綱大関に駆け上がる可能性を秘めている。

このほか、同じ新入幕の豪ノ山と湘南乃海も二桁の勝ち星を挙げ、敢闘賞を受賞した。また、小結の琴ノ若も三役で初めて11勝して、敢闘賞。豊昇龍も入れて、6人の敢闘賞となった。

場所前は豊昇龍に加え、大栄翔と若元春の三人に大関獲りが期待され、もしかするとトリプル昇進も?と希望が膨らんだが、豊昇龍以外の二人は終盤に大きく崩れ、9勝6敗。大関獲りは一から出直しとなったことは残念だ。今後、琴ノ若、さらに伯桜鵬を筆頭に下から新星がどんどん上がってくる。まさに戦国時代。激しい出世争いが繰り広げられることを期待したい。

横綱・照ノ富士が二日目、三日目と連敗し、休場した。膝に爆弾を抱えているだけに、来場所の出場も無理はしないでほしい。今場所が新大関だった霧島が初日から右肋骨骨挫傷で休場、四日目から強行出場したが、負け越してしまった。同じく膝の怪我で全休した大関・貴景勝とともに来場所はカド番となる。今後、横綱大関を含めた番付はどんどん刷新されていくことになるだろう。絶対的な強さを持つ力士が登場するまで、“誰が優勝してもおかしくない”場所がしばらく続くと思う。そんな大相撲戦国時代を楽しむのも、また一興かもしれない。