新宿末廣亭七月下席初日 神田伯山「お岩誕生」
新宿末廣亭七月下席初日夜の部に行きました。今席は10日間のうち、主任を半分の5日間を神田伯山先生、もう半分の5日間を三遊亭遊雀師匠が務めるという特別興行。昼夜の入れ替えありで、夜の部に限ってはチケットぴあで整理番号付き前売り券を発売した。開場時刻が16:25となっており、それまでに整理番号順に並んでいればいいので、大変に助かった。整理番号の券を取るために午前9時とかに一度足を運ぶことをしないで済むので、有難い。初日のきょうは伯山先生が「お岩誕生」をネタ出しである。
「和田平助」神田青之丞/「屛風の蘇生」神田鯉花/コント コント青年団/「両泥」三遊亭花金/「紙入れ」瀧川鯉斗/奇術 瞳ナナ/「雷電の初土俵」国本はる乃・沢村道世/「牛ほめ」三遊亭遊馬/バイオリン漫談 マグナム小林/「安兵衛駆け付け」神田阿久鯉/中入り/音曲&かっぽれ 桂小すみ/「反対俥」古今亭今いち/漫談&小咄 桂竹丸/漫才 宮田陽・昇/「お岩誕生」神田伯山
主人の高田大八郎に二階には決して昇ってはいけないと言われた、飯炊きの伝助だが、天井から血がポタ、ポタと垂れてくるのを不審に思い、二階に昇って長持から首が撥ねられた男の死骸を見たときには、伝助もさぞ驚いたことだろう。
そこへ、主人の高田が帰ってくる。その死骸は霊岸島川口町で金貸しをしている伊勢屋重助、余りにも借金の取り立てが五月蠅いから殺したのだという。それを知ってしまった伝助のことも高田は斬ろうとするが、伝助は必死の命乞いをするので、死骸をどこかに棄てて来いと命じる。命が欲しいから、伝助も必死だったのだろう、死骸を背負って夜中の道を彷徨う。
だが、誰かが見ているような気がして、伝助は京橋五郎兵衛町の自宅まで、その死骸を持ってきてしまう。そして、押し入れの中に仕舞う。赤ん坊を身籠った女房のお綱には、布団だと嘘をついて。その後、どうすればいいのか。伝助なりに考えた。そして、重助の女房のおふみに知らせようと考えた。だが、すでにそのとき、おふみはこの世の者ではなかったという…。
亭主の帰りが遅いのを心配したおふみは高田大八郎の家を訪ね、そこで高田に小刀で喉を突かれて殺されていたのだった。人間というのは身の保身のために、こうも人を殺せるものなのか。高田の残虐性に目を覆う。
もっと怖いのはこの後からだ。九ツ。雨が激しく降る。伝助が外へ出て行った五郎兵衛町の伝助宅に、「重助は来ていませんか?」とおふみが訪ねてくる。当然おふみは殺されているから、幽霊だ。応対したのは身重のお綱だ。お腹の子がお綱のお腹を蹴る。危険を知らせる合図なのか。
おふみをよく見ると、喉に小刀が刺さっていて、血がドクドクと出ている。なりふり構わず、おふみは家の中に入り、押し入れを開ける。「あった、あった、ありました」。重助の生首を抱きかかえ、喜ぶおふみが不気味だ。
金縛りにあっていたお綱は、その光景を見て絶命してしまった。だが、お腹の中の子はピクピクと動いている。お産婆さんが取り上げ、女の子が生まれた。母は死んだが、生まれた子は助かったのだ。お岩と名付けられた。
このお岩が後年、田宮家に入った伊右衛門と結ばれるが、何を隠そう、この伊右衛門は高田大八郎の息子だった。東海道四谷怪談の発端を、伯山先生が怪談としての怖さを巧みに演出しながら、尚且つドラマチックな因果応報の読み物として聴かせてくれた。