三遊亭萬橘独演会、そして立川吉笑三題噺傑作選

三遊亭萬橘独演会に行きました。「廿四孝」と「三枚起請」の二席。

「廿四孝」。隠居が教える中国の故事を、引っ掻き回す八五郎が実に愉しい。高校野球の監督によって、テンをカウントするところって何だ!?要は貧乏と婆はつながっていて、その婆は筍やら鯉やら、何かとモノを食いたがるんでしょう。おっしゃる通り。結論もはっきりしている。親孝行すると、金が儲かり、酒が飲めて、女にモテる!

「三枚起請」。遊女は男を騙すのが商売。だから、騙される男が悪いのだ、という喜瀬川の言い分は正論だ。だけど、たった一人にしか渡さないはずの起請文を何枚も書いちゃうのはルール違反だよなあ。その上、「あと18人に書いた。出てきな!」と居直るのもすごい。これだけ気が強くないと、遊女は勤まらなかったのかもしれない。

あと、棟梁、“広告の風船”こと唐物屋の伊之さん、“湿気った線香”こと経師屋の清さんの三人が可愛い。喜瀬川が一枚も二枚も上手なのは判るが、こんな女に舌先三寸でコロッと騙されちゃうんだから。本当に男はだらしないねえ。仕返しに行く途中の道で見つけた雄犬三匹が雌犬一匹の後を付いて行く姿と重なって、抱きしめてあげたいくらいに愛おしい。

配信で「代官山落語 立川吉笑三題噺傑作選」を観ました。「犬旦那」と「八五郎救世」の二席。どちらも、3月に渋谷らくごで5日間連続で三題噺に挑戦したときにできた作品に磨きをかけた噺だ。

「犬旦那」。野良犬のクロが「仕事が出来る」「命の重さは平等」という観点から、奉公“犬”から旦那にまで立身出世するという…。何よりも、クロは般若心経を唱え、仏の生まれ変わりと思わせる行動が随所に見られ、“徳が高い”とされるところが、最高に面白い。渋谷らくごの時にあった「新人研修」というお題の要素を思い切ってカットして、「犬が旦那になること」をもっともらしく落語に昇華したところが、吉笑さんの腕の良さだと思った。

「八五郎救世」。“マルチバース”という言葉にこだわって、八五郎を落語の世界に遊ばせ、メタ構造にした演出が光る。江戸が歪み、世の中が滅びゆくのを救う手立てを、マルチバースの能力者である八五郎が隠居から教えを授かり、活躍するという発想が面白い。

八五郎が隠居のところに行って色々教わる、「子ほめ」「つる」「やかん」「道灌」「千早ふる」等が全て“マルチバース”体験であるとするところ。そして、八五郎や隠居は「落語の中にいる」から、落語を演じる人の座る座布団が歪んでいるのを、まっすぐに直せば、世の中は救えるとしたところ。これが吉笑さんのセンスの良さだと思った。