19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~「サソリのうた」
鈴本演芸場7月上席九日目夜の部に行きました。「19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~」、きょうは千葉雅子作「サソリのうた」だ。女優で演出家で脚本家で、劇団猫のホテル主宰の千葉雅子氏が提供した、マイノリ(2011年)、サソリのうた(2015年)、秘境温泉名優ストリップ(2017年)の3作品を喬太郎師匠が演じている。それぞれ「きょんとちば」という落語会での口演だが、「サソリのうた」は2019年にお江戸日本橋亭でCD収録の会があり、「柳家喬太郎落語集 アナザーサイド」に収録されている。
「さよならたっくん」柳家やなぎ/奇術 アサダ二世/「鈴ヶ森」柳家小平太/「記憶喪失」林家きく麿/漫才 ニックス/「蝦蟇の油」柳亭市馬/「船徳」古今亭菊之丞/中入り/浮世節 立花家橘之助/「高砂や」入船亭扇橋/紙切り 林家二楽/「サソリのうた」(千葉雅子作)柳家喬太郎
やなぎさん、面白い!上京するさゆりに、別れた恋人のたっくんが…。追いかけてきたのは、代行業者とは!アサダ先生、手に負担のない手品。小平太師匠、髭を墨で描いて、アサダ二世じゃない!
きく麿師匠、ヨーデル。走ればゲロ出るし~。やたら落語に詳しいタケシ。ニックス、料理のあいうえお。味付け海苔、イカの塩辛、梅干し、枝豆、お酒を買ってきます!市馬師匠、立て板に水の口上。菊之丞師匠、見事な編集能力!
橘之助師匠、出囃子集。野崎(文楽)、老松(志ん朝)、序の舞(小さん)、一丁入り(志ん生)。扇橋師匠、小燕枝です!二楽師匠、鋏試しは芸者さん。注文で、ウルトラマン、ほおずき市。
喬太郎師匠、出囃子は♬恨み節。日活映画「女囚さそり」シリーズで一世を風靡した梶芽衣子さんの唄をYouTubeで聴き直した。
サソリ姐さんと呼ばれたヘレンと修道院時代に一緒だったマリアの純愛に心奪われる。「皆は結局、私の顔しか見ていなかった。だけど、あなたは私の心を愛してくれた」というヘレンのマリアに対する台詞が全てを象徴している。
修道院の院長先生は「慈しみの心を持ちなさい」と言うが、所詮、敗者は敗者を慰められないのか。顔の綺麗なヘレンを院に拾うことで、修道院が「行き場のない者の墓場」であることを否定したかったのかもしれない。人を美醜で判断することを暗黙のうちに認めていたことにもなる。それが許せずに、マリアは院長先生を殺したのか。
殺人を犯し、刑務所に入ったマリアは刑務所長の慰み者になっていた。それを救いに来た“サソリ姐さん”ことヘレンは、あえて自分の美しさを武器に所長と対峙し、結果として所長をとっちめることになる。それは女囚たち全員の願いを叶えたことにもなった。
マリアは「はしたなくなりたい」とヘレンに言う。自分のことを“アタイ”と呼ぶことを許してもらい、言った言葉。「サソリ、アタイね、あんたが大好き」。傷を負ったマリアを背負い、ヘレンの向かう道に夕陽が照らしている。映画のエンドロールの背景のような映像が目に浮かんだ。