19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~「宮戸川」(通し)

鈴本演芸場7月上席七日目夜の部に行きました。「19時40分の残酷~オモ(重)クラ(暗)い喬太郎~」、きょうは「宮戸川」の通しである。(上)のお花半七馴れ初めの部分は寄席でも頻繁に掛かるが、陰惨な描写となる(下)を演じる噺家さんは喬太郎師匠のほかには、五街道雲助師匠くらいしか僕は知らない。

「子ほめ」三遊亭歌きち/「千早ふる」柳家吉緑/奇術 アサダ二世/「棒鱈」柳家さん花/「二コ上の先輩」林家きく麿/ものまね 江戸家猫八/「祇園祭」春風亭一朝/「出来心」古今亭文菊/中入り/漫才 ニックス/「あくび指南」入船亭扇橋/「宮戸川」(通し)柳家喬太郎

吉緑さん、百姓一揆。大門を跨ぐ。アサダ先生、連日同じネタ。錯覚の利用が手品の原点。さん花師匠、たぬきゃあの腹鼓。きく麿師匠、高校時代から時間が止まっている先輩。怖い話をしろ!と命じるが、皆笑ってしまう話で…。

猫八先生、ニワトリの練習は意外と楽しい。カバ!に寄席演芸の奥深さ。一朝師匠、イッチョウケンメイ。ムサい国のヘド。文菊師匠、弱い芸能。「つまんない男なんです」。そんなことありません!

ニックス先生、そうでしたか。扇橋師匠、八五郎、28歳。釘を打たせたら、右に出る者がいない。兄貴、思っていたのと違うよ!正楽師匠、鋏試しは線香花火。注文で、天の川、パンダ。

喬太郎師匠、きょうも聴かせる。夢落ちと判っていても、正覚坊の亀の問わず語りに目を覆う。本当は落語だから「耳を塞ぎ」だろうが、情景が浮かんでくるので、その情景に思わず目を覆う気持ちになるのだ。そして、半七が亀の手を取って、「これで様子がカラリと知れた」からはじまる芝居台詞に聴き惚れる。ここが何と言っても、この噺を通しで聴く肝だろう。

浅草に買い物に出掛けたお花が雨に降られ、小僧の定吉が駒形まで傘を借りに行っている間にいなくなってしまった。どこを探しても見つからない。行方不明のお花は亡くなった者として供養し、一周忌となる。「お花はどこかにいる。必ず帰って来る」と半七は信じ、法要が終ったあとも、気を紛らわすために東向島で船を雇い、“風流の真似事”をするというのも、半七の胸の中に宿っているお花と心を通わせたいという思いがあったのだろう。

その船に偶然乗り込んできた、船頭仲間の正覚坊の亀。船頭が制止するのも聞かず、半七も話し相手が欲しかったからと言って、乗船を許す。亀は半七の姿形を見て、お店の裕福な旦那、女惚れのするいい男だと褒め、「家内の一周忌」だと聞くと、きっと女の方で放っておかないでしょう、いいご縁がすぐにありますよと言う。これは亀の素直な気持ちだったのだと思う。

でも、その後が余計だ。旦那に較べて、あっしらは良くて小店、大概は蹴転や夜鷹が相手にしてくれる程度、いい女は抱けない身分だと嘆く。それだけでもはしたない言動だと思うが、思い出したように、「身震いするような女を、一年前に一度だけ抱いたことがある。生涯忘れない」と、懺悔だと言ってそのときのことを話し出す。

雷門で雨雷に打たれて気を失っている女性をお堂に運び、船頭仲間3人で慰み者にした。輪姦だ。代わる代わる、三廻り。四廻り目で、女が正気に戻ると、「お前!亀だね!」と叫んだ。昔世話になった船宿の娘だった。これはまずいと、女の首を絞め、菰を被せて、宮戸川へ投げ込んだ…。陰惨な犯罪である。

ここまで喋った亀に対し、半七は「お酌をしましょう」と言って、亀が猪口を持った手を差し出すと、それをグイッと引き寄せ、「これでカラリと様子が知れた」。鳴り物が入り、半七の芝居台詞で行方不明だったお花強姦の亀の行状を責め立てる。誤解を招く表現かもしれないが、「カッコ良く」決まった。

ここで、小僧の定吉が寝込んでいた半七を起こし、夢であったことが判り、安堵する。法要は法要でも、霊岸島の伯父様の三回忌の法要が執り行われる寺の二階で寝込んでいたのだ。女房のお花は下で待っているという。

「夢は小僧の遣いだ」。陰惨な強姦も全て夢だったのか。ホッと胸を撫でおろす。