桂二葉独演会、そして鈴々舎馬るこ勉強会

桂二葉独演会に行きました。「青菜」と「らくだ」の二席。二席とも、二葉さんの大阪言葉がとても心地良く響き、上方落語の魅力を存分に堪能した。

「青菜」。植木屋の阿呆ぶりが何とも言えない可笑しさを醸していて、愉しい。鯉の洗いを何も付けずに食べてしまい、コリコリするだけで味がしないと言うまでは愛嬌の範疇だが、酢味噌の代わりに山葵醤油でお食べと旦那に言われ、藻草のようだと言いながら、山葵だけを口に放り込み、「口に合わん」とするところ、もう抱きしめたくなるほど可愛い。

奥様が三つ指を付いて菜が無くなったことを隠し言葉で伝えると、植木屋は綺麗だ、上品だと褒めちぎった後、自分の女房を引き合いに出すのがとても可笑しい。出来物のことを大坂言葉で“でんぼ”と言うそうだが、その女房は尻(けつ)のでんぼに膏薬を貼れと尻を丸出しにして亭主に命じるのだそうだ。そして、そんな女房だから、「菜がおまへん」の一言で済ませてしまうだろうと。

あと、植木屋の上流階級の暮らしへの憧れが垣間見えるのも良い。井戸で冷やした柳影を贅沢!大名酒だ!、鯉の洗いを贅沢!大名魚だ!とするまでは理解できるが、青菜まで贅沢!大名菜だ!と言うのは、言い過ぎじゃないかと思わせるが、そこがまた可愛らしい。

「らくだ」。兄貴分の脳天の熊五郎がらくだの家を訪ね、「寝腐っていると思ったら、ごねているのか」という台詞一つで上方落語の世界に誘ってくれる。

屑屋が熊五郎に言われた通りに家主のところに酒と煮しめを頼みに行ったところ。家主はらくだが河豚に当たって死んだことを「天罰」だと言い、「生き返るかもしれないから、頭を潰しておけ」と言うのも、らくだには散々迷惑していたからだと判る。家賃の催促に行ったら、逆に刀を振り回されて、「二度と家賃の催促はしない」という約束をさせられた、だから3年分の家賃を棒引きにするだけでも十分香典の代わりになるだろうと。

兄貴分の熊五郎はそんなことでは承知しない。家主が「死人のカンカン踊り?面白い。初物だ。七十五日寿命が延びる」と言ったから、もう大変だ。屑屋にらくだの死骸を背負わせ、家主の家まで運び、「承りますれば、死人のカンカン踊りをご所望だそうで」と、有言実行。家主夫婦を怯えさせる。

兄貴分の熊五郎に屑屋も怯えて何でも言うことを聞いていたが、屑屋が豹変し、立場が逆転したのは三杯目の酒から。酒乱である。一杯目、二杯目は呷るように一気に飲み干していたのが、三杯目からは「良い酒ですな。最前みたいな飲み方をしていたら勿体ない」と言い、熊五郎を評する。「人の世話、なかなか出来るもんじゃない。怖い人かと思ったら、優しいところもある。怖い中にも情がある。好きや」。

そして、らくだには随分と泣かされたと言って、地べたの絵を買えなんて無理難題をふっかけられたという話をした後、「らくだ、ボケ!」と死骸に向かって吐き捨てるように言って、「もう一杯!」と熊五郎に要求すると、もう屑屋ペースだ。

屑屋の人情噺が始まる。若い時分は丁稚を3人も使って店を開いていた。だけど、酒のせいで今の屑屋稼業に身を持ち崩した。前のカカアは良い人だったが、それで亭主の自分が増長し、カカアが貧乏慣れしていなかったこともあって、二十七で死んでしまった。後から貰ったカカアは、その分貧乏慣れしている。上の娘は前のカカアの子で、下の倅は後のカカアの子。分け隔てなく育ててくれているが、どこか上の子への遠慮がある。自分は寝しなに三合飲るのが毎晩の楽しみで、酒が切れて橋向こうの酒屋に買いに行けとカカアに命じると、上の娘が「あたしが買いに行くよ」と言ってくれた。娘にこんなことさせても、これ(酒)ばっかりはやめらない。

そう言った後、「われ、聞いてんのか!」と屑屋は熊五郎に怒鳴るのが、この噺の頂点ではないかと思う。この後、屑屋の主導で千日前の火屋まで行く。「冷やでもいいから、もう一杯」のサゲまで完全通し口演。二葉さんの可能性が益々広がっていくのを感じさせる素晴らしい高座だった。

配信で「まるらくご爆裂ドーン~鈴々舎馬るこ勉強会」を観ました。「肝つぶし」「大安売り」「糖質制限初天神」の三席。

「肝つぶし」。夢の中の女性に恋煩いをしてしまった次郎の独白が聴かせる。戌の年、戌の月、戌の日に産まれた人間の生き肝を飲ませると病が治るという…。次郎に恩義のある主人公は大事な妹の生まれが戌の年月日が揃っていることを知り、出刃庖丁を持って一思いに…。サゲが身上のこの噺、しっかりと興味を繋いで、サゲまで持って行く技量は流石である。

「大安売り」。山本山という力士が、海苔の佃煮みたいという表現が面白い。元銀行員が引き落とし、元居酒屋が突き出し、元幼稚園の先生が送り出し。10戦全敗を飽きさせずにオリジナルギャグで聴かせる。

「糖質制限初天神」。糖質制限ダイエットをしているパパが、娘の中学受験合格祈願で天神様に行くと言うので、ママの命令で娘が監視役として付いて行くというのが、「初天神」の逆でユニーク。

誓いの言葉、空腹を覚えたら干し椎茸をしゃぶる。そばめし、ジャンボたこ焼き、ライスボール…誘惑がいっぱい。おみくじの中吉を「カトキチ」と読んでしまい、冷凍うどんが食べたいという…。

印刷会社で真面目に働いてきた男の唯一の息抜きが“糖質”だという訴えに、娘も折れて、団子を1本買うことを許すが…。団子屋はスマホ決済可能と知り、蜜の壺ごと買ってしまう男の弱さよ。馬るこ師匠らしい改作、今回サゲをリニューアルして、益々面白くなった。