梅雨だし、夏至だし、一之輔夏噺「大山詣り」

鈴本演芸場6月下席八日目夜の部に行きました。春風亭一之輔師匠が主任で、「梅雨だし、夏至だし、一之輔夏噺」と題したネタ出し興行だ。初日から千秋楽まで休みなし。10日間のネタは①百川②ちりとてちん③佃祭④船徳⑤千両みかん⑥唐茄子屋政談⑦鰻の幇間⑧大山詣り⑨かんしゃく⑩青菜。連日盛況のようで、今夜も9割の入り。平日なのに、すごい。

「やかん」林家十八/「唖の釣り」春風亭与いち/奇術 ダーク広和/「道灌」春風亭一蔵/「酢豆腐」古今亭菊之丞/紙切り 林家正楽/「粗忽の釘」隅田川馬石/「片棒」春風亭一朝/中入り/漫才 ニックス/「睨み合い」林家彦いち/ギター漫談 ペペ桜井/「大山詣り」春風亭一之輔

与いちさん、殺生禁断。七兵衛さんが身振り手振りで“親孝行”を表現するのが、愉しい。それを100%解読する見廻り役人も可笑しい。ダーク先生、トランプマジック。3Dファンカード。3枚のカード。一蔵師匠、大きな土管は有名じゃない。八五郎は提灯屋だった!

菊之丞師匠、シャツの裏って、こうやって作るのか。キザな若旦那のフレーズが好き。スンちゃん!めずらか。もちりん。正楽師匠、名人芸。相合傘、朝顔、線香花火、カルガモ親子。馬石師匠、女房との馴れ初め。縁日に誘って腰巻3枚買ってやった。一朝師匠、イッチョウケンメイ。銀次郎の破天荒で未曾有な弔いの歴史に残る弔いが愉しい。

ニックス先生、そうでしたか。コンビ結成25年。一般人が、チンパンジー。彦いち師匠、ドキュメンタリー落語。弟子のやま彦「河野太郎の父は麻生太郎」。ペペ先生、マンネリの美学。名刺を使って、雷(カミナリ)。

一之輔師匠、「コンプライアンス完全アウトの噺」。熊五郎が神奈川宿で暴れて、決め式で坊主にされたのに、その仕返しというか腹いせというか、自分以外は全員船がひっくり返って死んでしまったと作り話を長屋のおかみさん連中にして、全員を尼さんにしてしまうという…。性悪極まりないのだが、それもこれも全部落語ということを理解した上で楽しむ器量が聴き手には必要。僕は好きだけどね。

熊五郎の乱暴ぶり。湯船に無理やり割り込んできて、文句を言う辰公の頭を蹴って風呂から上がったり、布団に横になっている人間の上をピョンピョンと因幡の白兎みたいに裸で飛び回ったり。毎年のように暴れて、熊さんが行くなら今年はオヤマには行きたくないという人間が出て、先達の吉兵衛さんが「今年は遠慮してくれ」と言うのも仕方ないなあと得心がいく。

だから、源公と辰公が腹が立ったから決め式の二分を払うから、その代わりに熊五郎の頭を丸めてやらないと気が済まないという気持ちがよく判る。酔っ払って中二階でいびきをかいて寝ている熊五郎の頭に酒を吹きかけ、自慢の髷を落として、剃刀で丸坊主にしてしまう。さらに蚊帳を頭以外に被せて、蚊に食われるように画策して、結果“ほおずきのお化け”みたいな頭にしてしまうのは痛快だ。

皆が宿を出て行った後、女中たちが熊五郎を見つけて、ニヤニヤ笑って、「さっぱりしたでしょう」と言うのも可笑しい。熊五郎が蚊に食われて痒いと頭を触ったら、「え!?誰の頭?」とリアクションして、自分が丸坊主にされたことに気づくところもまたまた痛快だ。

だが、それで反省するような熊五郎ではない。金沢八景から米ヶ浜のお祖師様に船を出してお参りに行く途中でハヤテに遇ってひっくり返り、自分以外の連中が全員死んでしまったという作り話も、よく即興で思い付いたもんだと、その悪知恵に感心する。自分が坊主にされたことを逆に利用して、おかみさん連中を信用させてしまうというのも巧い手口だ。

熊五郎の家で何人もの尼さんが数珠を持って百万遍を唱えているという光景も想像すると漫画チックで愉しい。不謹慎とは思うけれども。オヤマから帰ってきた熊五郎以外の長屋の衆が「随分と尼さんを揃えたなあ」「長屋に冬瓜の大安売りが来たみたいだ」と笑ってしまうほどだから。でも、それが自分の女房だと知ってからは怒り心頭だろう。先達の吉兵衛さんのように鷹揚に「皆さん、お怪我がなくて良かった」と笑い飛ばすことが出来れば良いが、そうもいかないだろうなあ。この後、長屋の連中はどう腹の虫を収めたのだろうか。