歌舞伎「傾城反魂香」、そして もっと!新ニッポンの話芸 スピンオフ

歌舞伎座で六月大歌舞伎昼の部を観ました。「傾城反魂香」「児雷也」「扇獅子」の3演目。「傾城反魂香」はよく上演される「土佐将監閑居の場」の後、「浮世又平住家の場」が演じられた。又平が描いた大津絵の人物たちが抜け出し、敵を討ち払う場面を舞踊仕立てで魅せるもので、実に53年ぶりの上演だそうだ。大変興味深かった。

「土佐将監閑居の場」も初世猿翁の型で、又平夫婦が開幕すぐに登場するもので、僕は初めて拝見した。目の前で弟弟子の修理之助に追い越されることで、浮世又平と女房おとくの悔しさがより一層強調されて、なるほど!と思った。又平を演じた市川中車、それにおとくを猿之助の代演で中村壱太郎が熱演し、とても良かった。

又平は吃音ゆえに自分の思うように話すことができない。だが、土佐の苗字を貰いたいと、おとくが夫の代弁者として願い出るが、師匠の土佐将監光信は何の功も立てていない者に情けで苗字を与えることはできないと、きっぱりと拒絶する。寧ろ、その甘い考えを罵倒するかのようだ。

虎の一件。将監は信楽山に現れた虎は名筆の誉れ高い狩野元信が描いた絵から抜け出したものと推測する。すると、弟子の修理之助自らが虎を消してみせると申し出て、その虎を見事に描き消した。師匠は絵の悟りを開いたと認め、修理之助を褒め、土佐光澄の名と印可の筆を授ける。

又平も負けじと名乗りをあげたのだが、将監は聞き入れず、弟弟子に先を越されてしまった。その上、虎退治に押し掛けた大勢の百姓たちに嘲笑われてしまう始末で、とんだ赤っ恥である。

悔しくて、悔しくて、堪らない。今生の望みが絶たれたと絶望し、又平とおとくの夫婦は自害を覚悟する。この世の名残に庭の手水鉢に自画像を描いたら、とおとくに促されたのが奇跡を呼んだ。

一心不乱に絵を描く又平の念力のようなものが筆に宿ったのだろうか。絵が石を通り抜けて手水鉢の表に現れた。この筆の功を師匠も褒め讃え、土佐光起と名乗ることを許される。

目の前で弟弟子に先を越され、師匠に罵倒され、百姓たちに笑われた。その悔しさから一転、天にも昇るような喜び。まさに狂喜乱舞とはこのことだ。

この又平の出世には内助の功があったことが見逃せない。女房おとくは吃音で自分の意思を上手く伝えられない又平の代わりとなり、一旦は一緒に死ぬことも覚悟した。彼女は「どもりとしゃべり」と言っていたが、まさに二人三脚で掴んだ栄光なのだと思う。「夫婦愛、ここにあり」と思う素敵な芝居だった。

夜は内幸町に移動して、「もっと!新ニッポンの話芸 スピンオフ」に行きました。広瀬和生さんプロデュースのこの会の源流は、2011年に一之輔師匠とこしら師匠の二人会形式で成城ホールでスタートとした「ニッポンの話芸」だ。その後、一之輔師匠が卒業して、馬るこ師匠と萬橘師匠(当時きつつき)が加わって「新ニッポンの話芸」、主催者が変わって会場も内幸町ホールになって「もっと!新ニッポンの話芸」となった。そして萬橘師匠が卒業することなり、こしら師匠+馬るこ師匠+広瀬さんイチオシの噺家という形で「もっと!新ニッポンの話芸 スピンオフ」として生まれ変わった。その第2回となる今回のゲストは柳亭信楽さんだ。(ちなみに第1回は大須演芸場で去年開催され、ゲストは旭堂鱗林先生)

信楽さんは僕も何度か行ったことのある「集まれ!信楽村」という月例の勉強会を開いていて、広瀬さんはほぼ毎月通うほどのゾッコンぶり。プログラムにも「独創的な新作落語で頭角を現している新進気鋭の二ツ目」「バカバカしい台詞を良い声でもっともらしく言う新作落語にハマった」と高く評価されている。いやはや、きょうは信楽さんのユニークな新作落語を2席も楽しめ、その上、馬るこ師匠とこしら師匠のヒネリの利いた改作落語も面白くて、最高の会だった。

鈴々舎馬るこ「馬のす」

この噺は下北沢で毎月開いている勉強会「まるらくご爆裂ドーン!」の配信で聴いたことがあるが、そこからさらにブラッシュアップされていて面白かった。離島にIターンしたデザイナーと地元の漁師の熊さんとの会話の妙。デザイナーに奥さんと馴れ初めを訊いて、「クラスメイト」という答えに「そういうマッチングアプリがあるんだ」としつこく何度も訊く熊さんが可笑しい。

落語に詳しい人から聞いたと言って、熊さんが落語界のホントかウソかわからないような裏話をするのも愉しいが、具体的な内容はとてもここには書けない(笑)。「馬のす」という噺のスタイルを上手に利用して、地噺的要素を会話のテンポで聴かせる。馬るこ師匠の本領発揮の一席だった。

柳亭信楽「出生の秘密」

危篤の父親から、全財産の入った金庫の鍵の番号を聞き出そうと息子シゲルは必死になるが、父親はシゲルの出生の秘密だけを話して死んでしまう。医師に電気ショックを加えてもらい、父親は蘇るが、また要らない情報ばかりを喋って死んでしまう。そして、また電気ショックを与え…、これを繰り返すが…。自分の出生の秘密などどうでもよくて金庫の番号を知りたいシゲルと何度も生き返っては死ぬ父親のバカバカしいやりとりに爆笑である。

柳亭信楽「密猟者」

二人組がジャングルに密猟に行く。目当てはキリンでもなければゾウでもない。野生のメジャーリーガー。町の中で出会わないメジャーリーガーは、ジャングルの中にいるという発想そのものが最高に可笑しい。それも守備要員や代走要員ではなく、ホームランバッター狙い。理由は何千万ドルという高額で売れるから。罠を仕掛けるのに、餌はチューインガムというのも、センス抜群だ。

立川こしら「千早ふる」

落語家の千羽家ふる歌(チハヤフルカ)と千早太夫は同一人物だった!本名は二人とも「とは」という事実からそれを突き止める。元相撲取りのタツこと龍田川とふる歌師匠は恋に堕ちる。その恋は永遠(とは)。千早ふるの解釈を3通りやって、一体この噺はどこへいくのだろうと思わせておいて、まさかの美しい着地。やはり、こしら師匠は天才だあ。