一之輔・天どん ふたりがかりの会 新作ねたのーと02

「一之輔・天どん ふたりがかりの会 新作ねたのーと02」に行きました。前回(去年9月)からはじまった新シーズン「新作ねたのーと」第1回の課題は「お互いに考えたタイトルから新作をつくる」。一之輔師匠が考えたタイトル案は「古い時計」「くるしゅうない、よきにはからえ」「最終回のあと」、天どん師匠が考えたタイトル案は「覚えてます」「隣の店」「届くかな」。ここから一之輔「隣の店」、天どん「くるしゅうない」の新作落語が誕生した。

今回も前回と同じ課題で、一之輔案「折衷案」「コンプラの国」「ロシアより愛をこめて」、天どん案「私がやりました」「懐かしの」「あとの祭り」が出され、お互いに交換、そして爆笑落語が生まれた。面白い!仲良しの二人だからこそ出来る企画で、お互いに刺激し合っている姿がとても良いなあと思った。

説明トーク/「ZIN―仁―」春風亭貫いち/「船徳」春風亭一之輔/「折衷案」三遊亭天どん/中入り/「いつ出るの」三遊亭天どん/「あとの祭り」春風亭一之輔/感想トーク

天どん師匠の「折衷案」。夫婦が行きつけの中華料理店に行ってメニューを決めようとするが、意見が食い違い…。麻婆豆腐を「本格」にするか、「四川」にするか、ちなみに「四川」が100円高い。青椒肉絲にするか、回鍋肉にするか。そこまではいいのだけれど、エアコンの設定温度や大型テレビのテレビ台のこと、ドラマを見るか、お笑いを見るか、中華料理店で言い争うことじゃないだろうという問題にまで脱線。それを全部、店主が折衷案を出すというのが面白い。

その夫婦が店主の折衷案に同意すると、ナイス・セッチュウ!とか、リトル・セッチュウ!とかフレーズが出て、これがまた噺のアクセントになって可笑しい。さらに脱線して、ドリンクバーがあればいい、ラザニアか、ドリアか、ハンバーグが食べたい、私は焼き魚定食!と展開し、ファミレスに行けばいいとなるのも笑える。

それだけ意見が違えば、別々に暮らせばいいのに…となるが、「私たちは愛し合っている!」という夫婦がこの噺の味噌だろう。意見が違う男女が折衷案を出しながら日々暮らしている、それが夫婦円満の秘訣なのかもしれない。

一之輔師匠の「あとの祭り」。現在45歳の一之輔師匠が20年後、65歳で死んだら、どんな弔いになるのだろうと、師匠自身が想像して楽しんでいるのが伝わってきて、とても愉しい気分になる。まず死因だが、健康ランドの余興で「初天神」を演ったらダダスベリで、心不全で死んでしまったというのが漫画チックで可笑しい。

笑点レギュラーになった頃が人気にピークで、そのときに某有名女優の不倫報道に抗議して、文藝春秋を襲撃したために、社会的制裁を受けたという設定も一之輔師匠らしい。それで上の3人の弟子は落語家を辞め、末っ子の貫いちだけがこの襲撃に加わらずに落語家として残った。20年後には豊橋で竹輪を焼いていたり、仙台で実家の洋食屋を継いでいたり、北海道であるセミナーに入信して壺を売っていたり、それなりに成功しているというのが弟子思いの師匠っぽい。

その元弟子3人と貫いちが一之輔師匠の弔いを出すことになったが…。これが酷い弔いで、一之輔師匠の幽霊が出てきて、4人に小言をずっと言うのが最高に可笑しい。音声入力したために誤字だらけの案内ファックス、葬儀場がよりによって野田と遠方、弔辞は圓丈師匠(天どん師匠が襲名した設定)で愚痴ばかり、遺影は23歳のときのもので髪フサフサ、お清めはピザ、別居しているおかみさんと愛人のフィリピン人女性が鉢合わせで喧嘩…。

爆笑に次ぐ爆笑だが、最近は噺家も家族葬で済ませ、後日に報告というパターンがほとんどになってしまい、故人を悔やむ場がなくなってしまったことが、ちょっと寂しいね、とおっしゃっていた一之輔師匠。自分の弔いをあえてネガティブに妄想することを楽しんでいる姿がとても愛しく思えた。

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