ザ・柳家さん喬、そして電撃Ⅱ

「大手町独演会 ザ・柳家さん喬 其の九」に行きました。「萬金丹」「唐茄子屋政談」「前付け らくだ」の三席。

「唐茄子屋政談」は若旦那・徳三郎を更生しようという叔父さんの思いやりがとても良い。唐茄子を売ってみろと言われて、「みっともないから嫌だ」と反応した若旦那に対し、お前みたいに汚い着物を着て町をウロウロしているのをみっともないというんだ!と一喝する姿に惚れ惚れした。汗をかいて稼ぐ金の有難みを身体で覚えてもらおうという深謀遠慮が好きだ。

人情味のある江戸っ子に唐茄子を売り捌いてもらい、残り2個となった唐茄子を担いで売り声の稽古をしようと脇道に逸れると、吉原田圃に着く。そこで、花魁との甘いやりとりを思い出し、新内小唄「蘭蝶」を口ずさむ(さん喬師匠は喉が良いなあ)ところ、まだまだ吉原で遊び過ぎたことへの反省が足りないなあとは思うけれども、裏長屋で三日もご飯を食べていない母子に出会うと、売り溜めをポン!と渡してしまう徳三郎もまた江戸っ子の情に厚い一面があることが救われる。

「前付け らくだ」は、らくだの馬さんが河豚に当たって死んでしまう前の様子を描いた部分を創作して頭に付けたもの。馬さんが豆腐屋、八百屋、魚屋から銭を払わないで食材を調達し、河豚鍋を食す。屑屋に恨まれるのも仕方ない性質の悪い男だったという前日談をお馴染みの落語「高砂や」「青菜」「寝床」を絡めて構成していて、面白い趣向だと思った。

でもやはりこの噺の一番の肝は、どぶろくの政(らくだの兄貴分)から酒を勧められた屑屋が三杯目から急に酒乱になるところだ。まだ支払いも済んでいない長寿庵の天丼の丼の揃いや“左甚五郎の彫った”蛙の置物を無理やり買わされて悔しい思いをしたと言った後からの豹変だ。

「そのとき俺はやっちゃおうと思ったんだよ!」と叫んで、4杯目を「注げ!」と要求する。「釜の蓋が開かないんじゃなかったのか?」と問う政に、「どこの?俺はそんじょそこらの屑屋とは屑屋の出来が違うんだ!」と睨み、「おとなしく言っているうちに注がないと、どうなるかわかっているか!大体、この酒は誰が稼いだ酒だ?!」。

屑屋の「何が死にゃあ仏だ?」に、どぶろくの政が「兄ぃの言う通りだ」。完全に立場が逆転するところが「らくだ」という噺のクライマックスだと思う。

夜は西巣鴨に移動して、「電撃Ⅱ」に行きました。柳家小ふね、桃月庵黒酒、春風亭だいえい、三遊亭ごはんつぶ、林家八楽の5人による会だ。このメンバーで前座時代に「電撃」という会を開いて勉強し、去年全員が二ツ目に昇進したのをきっかけに「電撃Ⅱ」と改名し、今年2月に第1回を開き、今回が第2回だ。

だが、この日の番組の終わりで「小ふね、黒酒の脱退につき、解散」が発表された。皆さん、それぞれに自分の独演会などの活動に力を入れたいとのことで、次回、10月7日開催が「これが本当の“電撃”解散」と銘打って、最終回となる。色々な個性が集まり良い会だと思っていたので、残念だけれども、前向きな解散だと知って、安心した。これからもこの5人を個々に応援していきたいと思う。

「茶代」春風亭だいえい/「姫狙い」三遊亭ごはんつぶ/「鮑のし」柳家小ふね/中入り/紙切り 林家八楽/「火焔太鼓」桃月庵黒酒

だいえいさん、渋いネタを持っている。茶代の額を「六助」「八助」と符丁で呼ぶことで決める旦那に対し、「オラは喜助でございます!」と本気で怒るのが面白い。

ごはんつぶさん、着眼点のセンス、ストーリーの構成、クスグリのディテール、全てが良い。高校デビューしようと考えている女子が、見た目は「中の中」だけど、ちやほやされるにはどうしたらいいか。オタサー(オタクのサークル)に入れば良いと母親に助言され、ロボット部に入る。好きなロボットアニメは「ガンダムの初期」、きっかけは「父の影響」という魔法の言葉を授かり、準備万端で仮入部するが、もう一人ライバルの女子がいて…。

小ふねさん、独特のフラが最高に可笑しい。甚兵衛さんは山田さんに50銭借りに行くのも、魚屋に尾頭付きを買いに行くのも、大家さんに祝いの品を届けに行くのも、「ちょっくら、湯に行ってくらあ」。女房から祝いの口上を教わるときは、ずっと「ウケ、ウケ」を繰り返し、親方から「熨斗の根本」の啖呵を教わるときは、ずっと「ヤイ、ヤイ」を繰り返すという…。だけど、「女の肌」の件だけは、なぜかクリアに覚えている可笑しさも、このフラあってこそ生きる。

八楽さん、鋏試しは「文金高島田」。出囃子は「暴れん坊将軍」。本名が吉宗だからとか。注文で暴れん坊将軍、シン・仮面ライダー、あかね噺のあかねちゃんを切る。

黒酒さん、安定感抜群、尚且つ上手さがある。甚兵衛さんが女房に「お前さんが稼がないから、どんどん痩せちゃって、女の魅力が半減しちゃう」と言われて、「俺はお前の見てくれに惚れたんじゃない。中身に惚れたんだ」と言うと、女房がつかさず「その世辞を商売に生かしてくれたら」とするところ、可笑しかった。屋敷に行って「こんな汚い太鼓を持ってきて!」と怒られるよと女房が脅すところ、松の木に縛られて黒松が血に染まって赤松になるという洒落も面白い。

300両を受け取る甚兵衛さん、100両で狂喜乱舞、150両からは泣き叫ぶ。女房は150両で気絶してしまい、250両で水を要求すると、甚兵衛さんは「はい、水・・と見せかけて、300両!」と驚かす。似た者夫婦の仲の良さも出ていて、とても良かった。