花形演芸会スペシャル~受賞者の会

花形演芸会スペシャル~受賞者の会に行きました。令和4年度の花形演芸大賞の受賞者が決まり、その贈賞式を兼ねた会である。

大賞:神田伯山(講談)/金賞:入船亭扇橋(落語)・柳家わさび(落語)・母心(漫才)/銀賞:春風亭柳枝(落語)・こばやしけん太(音まね)・真山隼人(浪曲)・柳家風柳(落語)

贈賞式で総評を審査員の中村真規氏が述べたのだが、その際に審査の詳細に触れたため、金賞や銀賞にも格上、格下がある等の印象を観客が持ってしまったことは否めなかった。それがこの晴れがましい、おめでたい席に相応しかったのかどうか。審査の詳細よりも、受賞者一人一人に芸に対する前向きなコメントを餞に贈った方が良かったのではないかと個人的には思った。

「和田平助」神田梅之丞/「つる」柳家風柳/「水戸黄門 ダフ屋のお蝶」真山隼人・沢村さくら/「権助魚」春風亭柳枝/「いかけや」入船亭扇橋/中入り/贈賞式 司会:柳家小せん/「黄金の大黒」柳家小せん/「MCタッパ」柳家わさび/音まね こばやしけん太/「宗悦殺し」神田伯山

風柳師匠、審査対象になった高座「長短」では、二人の役割を本来とは逆にして演じたことが好評だったようだ。だが、「つる」の改作はこの噺本来の面白みを削ぐものとなり、少々首を傾げる内容だった。

隼人さん、この会のチケットが即完売したことをネタにした、おそらくこの会のために創作した新作。面白い!その上で、節回しといい、啖呵といい、浪曲の魅力を余すことなく伝えている。

東海道と中山道を跨り、浪曲親友協会や上方落語協会、宝塚歌劇まで出入り禁止となっているダフ屋のお蝶が、この花形演芸会スペシャルのチケットを水戸黄門様に高額で売りつけようとして、逆に懲らしめられてしまうという…。ここで独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長が河村さんから長谷川さんに交代したことを知った(笑)。

柳枝師匠、「今川焼!」の権助の田舎者ぶりが実に愉しい。タコの足は8本で褌が大変とか、メザシは「どこを目指している?」とか、“かまぼっこ”がプカプカとか。聴き慣れた噺でも演出の工夫で爆笑噺に変えられるのは才能だ。

扇橋師匠、生意気で悪戯な子どもたちと鋳掛屋との攻防を、これまた実に愉しく演じる。金賞は「鰻の幇間」と「不動坊」の高座が評価され受賞したらしいが、寄席の15分高座でもその実力を遺憾なく発揮しているのは、柳枝師匠同様、宝である。

わさび師匠、新作の才が迸る。パーリーピーポー、略してパリピの半疑問形の喋り、そしてそのMCに弟子入りしたいという老夫婦の起こす行動が、ヤバイ、エモイ!三題噺から生まれた新作落語だが、今では寄席の定番にしているところが、わさび師匠の凄いところだ。

こばやしけん太先生、是非寄席の定席のメンバーになってほしい逸材。音だけであれだけ色々なイマジネーションを想起させる力は余人をもって替えがたい存在だ。電動髭剃りの電池が切れかけるところ、掃除機の紙パック式とサイクロン式の違い、窓拭き掃除、マウスのダブルクリック。生活の中の身近な音だけに、老若男女が楽しめる。ディズニーランドのジャングルクルーズや、映画「スターウォーズ」を様々な音の連続で表現するのも圧巻だった。

伯山先生、怪談講談の迫力に吸い込まれる。「どめくらが来ると酒が不味くなる」と吐いて、借金取りに来た宗悦を追い払う深見新左衛門の残虐性。さらに酒の勢いもあって斬り殺してしまった…。

その一年後の怨念。流しの按摩に住まいを訊くと、「小石川百間長屋戸崎町」という答えが出たときから、新左衛門が宗悦の怨霊に怯え始める表現が素晴らしい。「宗悦はどこにいる!」。流しの按摩だけでなく、妻・おまさをも宗悦に見えて、斬り殺してしまう狂気が怖ろしい。