音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!
西巣鴨スタジオフォーで「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」を開催しました。第4回となる今回は、ゲストに津軽三味線貢正流家元の二代目三山貢正さんをお迎えした。貢正さんは小すみさんとは平成10年にNHK邦楽技能者育成会で学んだ同期(第44期)だそうで、小すみさんが小学校教員として働いていた頃からの友人。ちなみにNHKは第55期、だから平成21年をもってこの文化事業から手を引いてしまった。残念なことだ。
前半は小すみさんの高座。伊勢音頭で始まり、「きょうのテーマは隅田川と恋心」とおっしゃった。都々逸の、隅田川さえ棹さしゃ届く、なぜに届かぬわが思い、をベースにしている。まずは「さわぎ」を演奏しながら、この都々逸を唄った。そしておもむろに、トウモロコシの形をした物体を取り出し、「これ、実はマラカスなんです」。人間は楽器を演奏するとストレスの65%を軽減できるという持論を展開、音痴だから、リズム感がないからと苦手意識のある人はこんなところから始めるもいいと提案するのも小すみさんらしい。
次に、俗曲「とっちりとん」の中に餡子で小唄「惚れて通う」を入れて、深草少将が小野小町に惚れて、100日通えと言われたが、99夜目に亡くなってしまったという悲しい恋の故事を唄う。もの悲しいなあ。
ここから恋心はワールドワイドになる。舞台はエジプト、ナイル川。右足に鈴、左足にタンバリンを付け、立ち上がって三味線と同時に演奏するスタイルで、作詞作曲した「クレオパトラの夢」を唄う。母なる隅田に小舟を浮かべ、大いなる海へと漕ぎ出す、ナイルは長い、長い、ナイルは深い、深い、もちろん棹は届かない、風に任せて波に浮く~。エキゾチック!
次の舞台はラプラタ川。これも作詞作曲した「ピラニアの塩焼き」。曲はアルゼンチンタンゴの巨匠ピアソラと佃合方、そして都々逸を融合させたもので、「天城越え」にも通じる、安珍と清姫の激しい恋心を唄う。ラプラタ川は世界一川幅が広い、もしかしたら棹は届くかもしれないけど、この思い早く届けよ~。小すみさんは「残虐性を昇華させる」とおっしゃっていた。
中入りを挟んで、三山貢正さんの高座。1曲目は「津軽模様」と題して、津軽じょんから節などをメドレーで演奏、細棹と違う太棹三味線の魅力を聴かせてくれる。2曲目は貢正さんが編曲した「芳春」と題した春の到来の喜びを表現した演奏を披露。
津軽五大民謡は津軽じょんから節、津軽よされ節、津軽小原節、津軽あいや節、津軽三下がり、と説明した後、3曲目は三下がりメドレー。津軽弥三郎節、津軽音頭、津軽三下がりの3曲をつなげたもので、これまた聴き応えがあった。
でも圧巻だったのは最後に演奏した津軽じょんから節。旧節、中節、新節を聴き比べということで、3つを特別メドレーで演奏した。津軽三味線は曲弾きといって即興性があるのが魅力、カッコイイ!素敵!と思った観客の掛け声や拍手に反応してアドリブで演奏すると説明があった通り、最後の新節でスタジオフォーのお客様の拍手や掛け声に乗って演奏が盛り上がり、何ともブラボーな高座となった。
続いては、小すみさんと貢正さんのコラボだ。その前に、津軽三味線の公開稽古と称して、小すみさんが津軽三味線の奏法を教わる。“押し撥”という奏法は、細棹三味線の“こかし撥”と、一打で2本の糸を叩くという点において似ているが、その力加減は非なるものがあるそうだ。ふむふむ。
コラボ1曲目は秋田音頭。津軽三味線を貢正さん、太鼓と唄を小すみさんが演奏。
コラボ2曲目は小すみさんが20年前に作曲した「梅雪」という楽曲。十二弦の箏と尺八と三味線による作品だが、今回のために、箏と三味線部分を小すみさんのピアノ、尺八部分を貢正さんの津軽三味線に編曲し直したものを演奏してくださった。梅の咲く時期に雪が降ってきたという情景が浮かぶ、心に沁みるようなしっとりとした名曲に仕上がっていた。素晴らしい!
コラボ3曲目は沖縄音楽「娘ジントヨー」。貢正さんが何と三線を弾いて、小すみさんがピアノと唄を担当した。この曲は朝ドラ「ちむどんどん」で、実際に貢正さんが番組用にレコーディングして使用されたそうだ。北の楽器である津軽三味線の奏者である貢正さんが南の楽器である三線を弾くのも興味深かった。
最後はアンコールということで、ドンパン節。小すみさんがお客様にも参加してほしいと呼びかけ、ドンドンを足踏みで、パンパンを手を叩いて、ドンドンパンパン、ドンパンパン、ドドパパ、ドドパパ、ドンパンパン!津軽三味線と唄を貢正さん、太鼓を小すみさん、そして会場のお客さんも一体となって、盛り上がり、大団円を迎えた。
桂小すみさん、二代目三山貢正さん、スタジオフォーの西島さん、そして何よりお越しになった70名のお客様、誠にありがとうございました!