立川談笑「慶安太平記 第3話 丸橋忠弥」
立川談笑月例独演会に行きました。4月にスタートした「慶安太平記」全9話連続口演、きょうは第3話だ。
幇間腹/復讐おんな/中入り/慶安太平記 第3話 丸橋忠弥
楠不伝を闇討ちにした村上信五を見事に返り討ちにして評判となった由井正雪は、和泉屋与兵衛の力添えもあって、不伝の娘と離縁し、不伝の道場も手放して、新たに牛込榎木町に張孔堂という道場を開く。武芸十八般を看板に掲げ、正雪の評判もあって、3000人もの門下生を集めた。そして、浪人している能力のある者を、大名に顔が利く和泉屋の口添えで仕官の斡旋をして、さらに名を高める。
10年後。門下生が正雪先生の噂をしながら花見をしていると、横で酔って寝込んでいる男を見つける。身の丈6尺もあるこの男、実は御茶ノ水で槍の道場を開いている宝蔵院流の名手、丸橋忠弥だったのだが、そのことを知らずに門下生が挑発するようなことを言ったので、丸橋は名乗りを挙げ、結果、後日に張孔堂へ道場破りに行くことになった。
この際、丸橋は友人の柴田三郎兵衛を誘うが、柴田は「あの由井某は張ったりの強い、山師だから相手にしない方がいい」と断ったので、丸橋は独りで牛込榎木町の由井の許を訪ねる。
玄関先に出た若い者に「由井先生に会いたい」と伝えると、あっさりと居間へ通される。出てきた正雪は「先日は門下生が失礼しました」と詫び、「きょうはお稽古ですか」と尋ねると、丸橋は「いや、道場破りに来た」と答える。
張孔堂の流儀で、まずは若い者2、3人とお手合わせを願います、となった。あの槍の名手、丸橋忠弥が来たとあって、500人もの門下生が脇で見守る。一番目に槍の稽古番、村田市之丞が向かうが、相手にならない。続いて木刀で木村庄之助が向かうが、やはりけんもほろろである。
そこで、正雪が「私がお相手しましょう」と進み出た。手に持つのは丸橋と同じ槍である。丸橋から見ても先ほどの二人とは構えからして格段違う。「これは出来るな」と思わせる。一同、息を飲む。丸橋の槍が正雪の槍を払って、正面を突いたかと思ったが、正雪は白扇を取り出して、突き出した。さすがの丸橋も突けない。
「参りました」という声が、二人の口から同時に出て、重なった。聞きしに勝る腕前。お互いにその実力を讃え合った。そして、湯に入り汗を流すと、膳と酒が用意されていた。正雪の諸国行脚の四方山話は大層面白く、丸橋は聞き入った。知識が豊富で、そして腕が立つ、だが何よりもその志に打たれた。
この立ちいかぬ世の中を憂い、困っている民衆を救いたいと願う正雪に対し、丸橋はこう言い放った。それは由井先生が悪い。なぜ、立たぬ?徳川をぶっ潰せ。あなたのような天才はいない。あなたが世を直せばいい。すっかり正雪に惚れこんでしまった丸橋である。
翌日、丸橋は柴田三郎兵衛を訪ねる。一緒に、張孔堂へ行こう!あれはいい人物だ。あんないい男はいない。聞けば、2日に1回、槍の稽古を付けにいく約束をしたという。まさに木乃伊取りが木乃伊になった。柴田はそれでも、「お前は丸め込まれたのか?あいつの言うことは口から出まかせだ」と頑なに断った。だが、最終的に正雪が幕府転覆計画を実行する際に、江戸方の先頭に立って指揮を執ったのは、この柴田であった、と談笑師匠はこの第3話を締めた。
さて、7月の第4話は「吉田の焼き打ち/怪僧善達」だ。楽しみである。