三遊亭わん丈独演会、そして「落語の仮面」第6話
「文京春日亭 三遊亭わん丈独演会」に行きました。「牛ほめ」「人間ドッグ」「松山鏡」「幾代餅」の四席。
「人間ドッグ」、どこかの総理大臣の秘書官を想起させるのが良い。生まれながらのお坊ちゃま、我儘放題に育てられたんだろうなあ、という上から目線の若造、いるよなあ。「座席で携帯電話で話すのはやめて頂けますか。通話はデッキでお願いします」。新幹線グリーン車の車内における乗務員に対して、若い乗客がとる横柄な態度に、聴いているこちらも苛々する。
へぇーと思ったのは、東京―博多間ではどこで乗って、どこで降りても、290円を支払うとペットを帯同できるという事実。ただし、ゲージに入れなければいけないが。それを逆手に取って、俺は犬だ!と言わんばかりに「ワン!」と乗務員に返答する屁理屈野郎をギャフンと言わせたい。秀作だ。
「幾代餅」。5日も飯を食わない清蔵に対し、おかみさんが「食べなかったら、死んでしまう」と心配すると、清蔵は「死んじゃいたい」と答える。すると、おかみさんが清蔵の頬を三発平手打ちするのが新鮮だった。そうだ。「死ぬ」なんて言葉を簡単に使うものではない。
でも、おかみさんには愛嬌もあって、清蔵が絵草紙の幾代太夫に恋煩いをしていると聞いて、笑わないと約束したのに大笑いした後、「でもね、作ったおまんまを残されるのが一番嫌なんだから」と深刻にならずに、軽くいなしているのがとても良いと思った。
親方も親方で、おかみさんから「清蔵に内緒にしてくれと言われた」と言われると、次の方策を考えていて、寝込んでいる清蔵の手を取って、手相を見る。そして、「お前、幾代太夫に一目惚れしたな」と、さも占いを当てたかのような風に切り出すのも愉しい。
わん丈さんの演出では、「嘘」というのがキーワードになっている。だから、「1年一生懸命に働いたら、幾代太夫に会わせてやる」と言ったけど、1年後に清蔵が「13両2分貯めたから幾代太夫に会いたい」と切り出すと、「ごめん。あれは嘘だ。俺は嘘が嫌いだから、つきたくなかったけど、お前に死んでもらっては困るから、仕方なく嘘をついた」と告白する。
職人だと太夫には会えないからと、薮井竹庵先生も清蔵のことを「野田の醤油問屋の若旦那」と嘘をついて、会わせてもらった。そんな嘘はつきたくなかった清蔵だから、幾代太夫に「今度はいつ来てくんなます」と訊かれたときに、「1年後に会ってくれませんか」と即答する。
自分は若旦那なんかじゃない、搗き米屋の職人だ、だから1年働いて金を貯めないとまた会うことはできない、嘘をついてしまい申し訳ない、1年後に今度は嘘無しで会ってくれないか、と清蔵は懇願する。
嘘も方便だが、真っ正直に生きる清蔵の姿に共感して、幾代もこの男に惚れたのではないか。そう思わせる高座だった。
配信で「和泉の挑戦!落語の仮面 全十話」を観ました。今回は第6話「あや姫伝説」だ。第4話で三遊亭花はスキャンダルから落語の世界を追放されてしまった。そして、公園で出会った権爺と「夢幻桜」の舞台である、作者の林田馬太郎先生の故郷を訪ねるのが、この第6話だ。
“あや姫”という桜の精が宿っている枝垂桜を観に行った花は、ふとした弾みで崖に落ちてしまう。そこは桜の谷で、長吉という少年が助けてくれた。話を聞くうちに、ここは現代ではない、平安時代にタイムスリップしてしまったことが判る。
村長の娘・桜子は実はあや姫で、帝の弟と陰陽師・安倍清子の間に産まれた高貴な家柄、不思議な力を持っている。故に、侍たちに命を狙われ、天神山へと逃げ込むが、とうとう決闘となる。そのときに取り出したのが母から貰った青い石の首飾りで、その威徳でもって、侍たちを撃退する。
だが、深傷を負ったあや姫は自分が桜の谷の守り神であることを明かした上で、肉体は滅びても、魂は枝垂桜に残すと言って死んでしまった。そのときに、あや姫は花に問うた。「お前の運命(さだめ)は何だ?」「落語です」「それは手段だ。その落語で何をするのだ」「落語で人を幸せにするのです」。
夢から覚めた花。崖から落ちて3日間眠り続けていたという。だが、あや姫との出会いは夢ではなかったと花は信じる。そして、「落語で人を幸せにする」という運命を背負ってこれから生きていくことを誓う。
「風の谷のナウシカ」ならぬ“桜の谷のハナシカ”でした、と締めた。全10話の中では一番「ガラスの仮面」のパロディー色がなく、また落語社会が出てくることもない異色の回だ。弁財亭和泉師匠は、そのハンディを乗り越え、SFチックなファンタジー&アクションとして仕上げた。この後、主人公の三遊亭花は東京に戻って、再び落語ロードが展開する。第7話以降が楽しみである。