末廣亭5月中席初日夜の部(春風亭一之輔主任)

末廣亭5月中席初日夜の部を観ました。夜は春風亭一之輔主任だが、昼夜入れ替えなしなので、少し早く行って、昼主任の柳家花緑師匠の高座も観た。「岸柳島」の人物を丁寧に描いて、二人の侍、屑屋、船頭、野次馬を軽妙に演じ分けていたのが大変に良かった。15分高座でも出来るネタだが、そこをトリネタにするところに、花緑師匠の気概のようなものを感じた。

「魚根問」春風亭いっ休/「桃太郎」春風亭与いち/音曲漫才 ジキジキ/「西行」林家たけ平/「両泥」春風亭一左/ジャグリング ストレート松浦/「替り目」古今亭菊太楼/「東急駅長会議」夢月亭清麿/奇術 松旭斎美登・美智/「壺算」春風亭一朝/中入り/「浮世床~本」春風亭一蔵/漫才 風藤松原/「猫の皿」三遊亭歌武蔵/「老人前座じじ太郎」三遊亭白鳥/太神楽 翁家和助・小花/「鰻の幇間」春風亭一之輔

与いちさん、「美味しいですね、お母さん」。作者は物語に普遍性を持たせたのだね。信用は宝物!ジキジキ先生、洒落で旅めぐり。♬レット・イット・ビーと♬なごり雪が見事に調和する!奥様は武蔵野音楽大学声楽科出身。

たけ平師匠、得意の地噺。蝶(=丁)なれば二つか四つも舞うべきに一つ舞うとはこれは半なり。一羽にて千鳥といえる名もあれば一つ舞うとも蝶は蝶なり。一左師匠、泥棒噺。空き巣って、最近は聞かないなあ。ストレート松浦先生、汗だく。踊る傘はすごい!

菊太楼師匠、末廣亭はまだアルコールは解禁になっていません!お寝!お寝ない!あなたは私の弁天様。清麿師匠、二子新地がとても良いなあ。都立大学、学芸大学、二つとも大学はとっくの昔に無くなっているけど、駅名は残しておきたいよなあ。美登先生、パン時計鮮やか。

一朝師匠、イッチョウケンメイ。商売をした!という満足感が得られない店主が愉しい。一蔵師匠、打ち上げ解禁でサイゼリヤ。本多と真柄の一騎討ち、まつこう!風藤松原先生、ウルトラソウル!掴もうぜ、状況証拠!痔にはカルボナーラ!ねえ、ムーミン、ちょっとどいて!グルグルグルグル、グルジア人!

歌武蔵師匠、高麗の梅鉢。白鳥師匠、近未来落語。完全なる逆ピラミッドで、シルバー人材センターから前座が派遣されるという…。和助師匠、土瓶の至芸で魅せた!

一之輔師匠、マクラで「チャールズ国王の戴冠式に参列してきた」報告(爆笑)。本編は幇間・一八の悲哀を笑い沢山で包んで、これぞ一之輔落語!というところを見せてくれた。

一度は幇間に向いていないと考えたこともあった一八だが、一所懸命にやっていれば必ずいいことがある、そう信じてきた。20年前に芸人になりたくて、父親に勘当され家を出た。だが、三つ下の弟は応援してくれて、別れ際に「20年経ったら、僕が店を継いで、兄さんをお座敷に呼ぶから」と言って、10円札を1枚渡してくれた。そんなドラマのような背景のある幇間の人間ドキュメントだ。

だからこそ、自分のことを「師匠!」と呼ぶこの人は誰だろう?とずっと引っ掛かりながら、最後に騙された!と判ったとき、憤懣遣る方無い一八の姿を全くの他人事として見ることができない。笑いながらも、その一方で悲しみが溢れ出る。

手銭で払うしかない、わかった、払いますよと言いながら、あの野郎もあの野郎だが、この店もこの店だ、と言って、もはやこの鰻屋、それも目の前の勤続65年の女中に当たるしかない悲しみを僕は受け止めてあげたいと思った。

毛羽立って汚い畳、俺はお裁きを受けているんじゃない!障子が破れているのを繕うのは、障子紙で貼れよ!新聞紙、しかも朝日、産経、赤旗、聖教新聞、イデオロギーはどこへ?床の間に枯れすすき、初夏なのに?一年以上、放置していたわけでしょ!掛け軸がずれて、壁が日に焼けているところに、ペナントを貼るなよ!湯河原?聞いていない!

酒は口の中で弾ける。越後の酒?コシノ?・・・ジュンコ!?お猪口が田中葬儀店、電話番号まで書いてあって、こっちは「寿 武志・靖子」。三か月で別れました?聞いていない!鰻は嚙み切れない。良くてウツボ!ゴムホースを割いて醤油で焼いたのか?筋骨隆々。鰻の雷電為右衛門か!タレは醤油でしょ。秘伝?企業秘密って何様のつもり?

最後に店の店員全員呼び出して、「マヨネーズは鰻の薬味じゃない!」。このフレーズに一八の怒りと悲しみが集約されていた。そんな哀愁漂う幇間ブルースだった。