落語わん丈 牡丹灯籠通し

「落語わん丈~牡丹灯籠通し~」に行きました。三遊亭わん丈さん、来年3月に抜擢で真打昇進が決まった実力派である。彼がずっと取り組んできたのが三遊亭圓朝作の「怪談牡丹燈籠」、これを一気に演じるというのでおっとり刀で駆け付けた。冒頭、この長編に登場する人物の相関図を書いた巨大扇子が袖から出てきて、簡単にこの複雑に絡み合った人物の関係をかいつまんで説明した。これは志の輔師匠が採っている手法と同じであるが、次からが違う。この相関図をずっと置きっぱなしにして、全段を語るのである。聴き手は突然出てきた人物について、わん丈さんの横に置かれた図によって確認できるのだ。

また、牡丹燈籠は22話で構成されていて、奇数が「孝助の槍」、偶数が「お露新三郎」と2つの軸を交互に展開していて、これが最後につながるように圓朝師匠は創作したと冒頭で説明した。そして、これを3部構成(途中5分程度の休憩が2回)にして、この2つの軸をわん丈さんは見事に交錯させて組み立てて、聴き手の興味を逸らさない工夫を施している。編集能力も含めて、いやはや、素晴らしい3時間だった。

第1部

萩原新三郎は幇間医者の山本志丈に誘われて、亀戸に梅見に行き、その帰り道に柳島に住むお露と女中お米のところに立ち寄る。新三郎とお露はお互いに一目惚れして、また会える日を楽しみにしていた。あるとき、新三郎は長屋店子の伴蔵を連れて釣りに出かけ、途中でお露のいる柳島の寮を訪ねる。すると、うまい具合にお露と再会でき、喜び合っていたが、そこへお露の父の飯島平左衛門が現われ、「何をしている!」とお露と新三郎を斬ってしまう。だが、それは舟の上で寝てしまった新三郎の夢だった。不思議なことに、お露から渡された母の形見の香箱の蓋は新三郎の懐にあった…。

しばらくして、山本志丈が新三郎を訪ねる。なんとお露は焦がれ死にして、お米も亡くなったという。だが、夜になって、牡丹燈籠を持ったお米を伴い、お露が新三郎を訪ねる。死んだというのは山本がついた嘘と判り、二人は嬉しい仲になった。近所に住む人相見の白翁堂勇斎が、白骨と抱き合っている新三郎を見て、このままだと死んでしまうと説き、お露たちが住んでいるという三崎村まで連れて行き、そんな女性はいないことを確認させる。そして、新幡随院の良石和尚の教えによって、お札を家に貼り、海音如来のお守りを身に付け、お経を唱えることで、お露とお米が近づかないようにする。

ここで話が変わって、本郷刀屋。若い侍が刀を求めようとしている店先で、中間が酔っ払いに絡まれる。酔漢は黒川孝蔵という性質の悪い浪人で、相手にしない方がよいと判断し、柔和に対応していた若侍だが、挙句に痰鍔を紋付にかける始末で、堪忍袋の緒が切れ、黒川孝蔵を斬ってしまう。

この若侍こそ、後に飯島平左衛門となる男。この飯島に草履取りとして雇われたのが孝助。実は黒川孝蔵の息子であった。孝助は親の敵を討ちたいので武術を学びたいと飯島家に召し抱えられたのだ。飯島は自分が討った男の息子であることを知ったが、そのまま可愛く仕えさせた。だが、孝助は親の敵が飯島であることを知らない。また、飯島は妻に先立たれ、お国という女中を妾にした。だが、お国は隣り屋敷の宮野辺家の長男、源次郎と密通をしていた。

話は戻って、お露とお米。新三郎の家に入ることができないので困って、新三郎の下男として世話をしている伴蔵に掛けあう。お札を剥がして、海音如来のお守りを外してほしいと頼む。断りたいが、相手は幽霊だ。女房のお峰に相談すると、100両貰えればと条件をつければいいのでないか、さすがに幽霊も諦めるだろうと考えた。だが、お米は100両出すという。

そこで、伴蔵とお峰の夫婦は新三郎に行水をしないかと誘い、海音如来のお守りと木製の偽物とをすり替えてしまう。そして、お札を剥がし、お露とお米は新三郎の家の中へ入ることができた。翌朝、白骨を抱きながら事切れている新三郎の姿を伴蔵と白翁堂勇斎が発見する。伴蔵夫婦は証拠を掴まれないように、海音如来のお守りを裏の土の中に埋めてしまった。

第2部

お国と源次郎は不義密通を重ねている。邪魔なのは飯島平左衛門だ。いっそ、殺してしまえばいいと考える。釣りに誘って、舟の上から突き落としてしまおうと計画を練る。これを聞いていた孝助は、何とか飯島様を助けたいと考える。それを厄介に思うお国と源次郎という構図が出来る。

孝助に、相川新五兵衛の娘、お徳との縁談が持ち上がる。これをよく思わないお国は源次郎の家来の相助がお徳に惚れていることをいいことに、亀蔵、時蔵と共謀して孝助を闇討ちにしようとするが失敗に終わる。また、お国は飯島の引き出しから100両の紙入れを盗み、孝助の手文庫に忍ばせて、罪を着せようとするが、これも失敗に終わる。お国は目の上のたんこぶの孝助を排除できない。

飯島殺害計画の釣りに出かける前夜、孝助は源次郎の影を見つけ、槍で突く。だが、それは主人の飯島平左衛門だった。傷を負った飯島は孝助に相川新五兵衛に託した手紙と家宝の刀を授ける。飯島家再興を願う思いだ。そして、飯島は源次郎に止めを刺されて死ぬ。

話は変わって、舞台は栗橋宿。伴蔵・お峰の夫婦は100両を持って、江戸を後にして、ここに関口屋という荒物屋を開業、大層繁盛した。伴蔵は金ができると慢心し、笹屋という料理屋の女中、お国を溺愛した。お峰は馬ひきの久蔵から、この一部始終を聞き出し、伴蔵にどういうことかと詰め寄る。最初はシラを切っていた伴蔵だが、「ここまでこられたのは新三郎様を見殺しにして100両拵えたおかげだ。これ以上、嘘をつくとお前の罪をばらすよ」とお峰に言われ、観念して全てを打ち明ける。そして、これからはお峰だけを愛して尽くすと誓う。だが…。祭り見物に行ったあとの帰り道、幸手の土手に海音如来のお守りがここに埋めてあると嘘をついて、見張りをしていたお峰の背後を襲い、道中差しで斬り殺した。

第3部

お峰が追い剥ぎに襲われたとして、店の者にその死骸を発見させ、伴蔵は殺害の罪を逃れた。だが、店の奉公人が次々とうなされる病に襲われる。お峰が乗り移ったように、うわ言を言うのだ。そこへ現れたのは、幇間医者の山本志丈。奉公人を里に帰すと何事もなくなり、残ったのは伴蔵と山本の二人だけだ。さすがに、山本はお峰殺害の真犯人が伴蔵であることが判る。

笹屋へ行くと、山本はお国と再会。ビックリするが、お国が次に出る行動は読める。山本は伴蔵にお国が源次郎と密通し、飯島を殺して逃げていることを教える。予想通り、源次郎が伴蔵のところに来て、越後新潟に行きたいので路銀を融通してほしいと頼みにくる。要求は100両。お国と伴蔵が出来ていたことをネタにした強請りだ。だが、伴蔵はひるまない。逆に江戸の飯島様の一件を源次郎に突きつけ、25両でカタをつける。どっちが悪党か分からないくらいの迫力だ。

伴蔵と山本志丈は江戸へ出るが、足手まといになると、伴蔵は山本をも殺害してしまう。

一方、孝助はお国と源次郎を探し回ったが、見つからず、飯島平左衛門が眠る新幡随院に墓参に行く。そこで良石和尚と出会い、人相見の白翁堂勇斎を紹介される。そのとき、向こうの方から逃げてくる男がいる。何と、岡っ引きに追われている伴蔵だった。孝助が捕まえ、伴蔵はお縄となった。

孝助は白翁堂の元を訪ねる。4歳で別れた母親と再会することができるのでしょうか、と問うと、あなたはすでに会っているという答え。すると、同じく相談にやってきた女性が4歳で別れた息子と再会することができるのでしょうかと尋ねる。何と、その女性はおりえと言って、孝助の母親だったのだ。

さらに、孝助がお国と源次郎という敵を討とうとしているというと、おりえは自分が住む宇都宮の家にその二人はいるという。樋口屋五兵衛の後妻に入ったおりえにとって、お国は義理の娘に当たるというのだ。さあ、仇討ちに行きなさいとおりえは言ったが…。

おりえは義理の娘と言っても、後妻に迎えてくれた恩のある五兵衛の実の娘。おりえは宇都宮の家に戻ると、お国と源次郎に逃げなさいと言う。そして、後からやってきた孝助には「すまないが逃がした」と言う。だが、お国の兄に当たる五郎三郎がそっと「今頃、十郎ヶ峰にいると思う」と教えてくれる。

お国と源次郎は、途中、家来だった相助と亀蔵にも出会い、助太刀を頼むが、やがて孝助が追いかけてきて果たし合い、お国、源次郎、そして家来たちをも亡き者にして、見事に本懐を遂げた。

聴き応えたっぷりの、素晴らしい「牡丹燈籠」通しであった。