新鋭女流花便り寄席、そして国立名人会

「新鋭女流花便り寄席」に行きました。講談の貞寿先生、いちかさん、紅純さん、さらに浪曲のすみれさん、と僕のお気に入りが大勢出演するとあって、楽しみに出掛けた。蘭先生の新作講談も聴けて、およそ4時間、たっぷりと楽しんだ。

「村越茂助 誉れの使者」宝井小琴/「牛ほめ」立川幸路/「安政三組盃 羽子板娘」田辺いちか/「秋色桜」神田紅純/音曲漫談 KEIKO/「お富与三郎」一龍斎貞寿/中入り/「山内一豊の妻」天中軒すみれ・沢村理緒/「夢の酒」桂しん華/動物ものまね 江戸家まねき猫/「ココ・シャネル」神田蘭

いちかさん、主人公お染がとても魅力的だ。ちゃきちゃきの神田っ子、無礼講だと言われて三合入り、五合入り、七合いりの盃をぐいぐいと飲み干す酒豪ぶりがすごい。それで三年の約束で奉公したのに、四年経っても解放してくれない鬱憤を老女松崎に見事な啖呵で晴らすのがとても気持ち良い。

紅純さん、おあきの親孝行ぶりが素敵だ。俳諧の才能を宝井其角に見い出され、若くして秋色という俳号で女宗匠にまでなった娘が、父親の六右衛門を思いやる気持ちに感じ入る。自分が駕籠に乗って、父親に提灯持ちをさせることを心苦しく思い、駕籠屋に腹痛と偽り、父親に駕籠に乗せる労わりの気持ちがなんとも嬉しいではないか。

貞寿先生、いい男といい女の恋の運命を興味深く描く。赤間源左衛門に間男を見つかり、34か所の傷を負って半死半生の“切られの与三”。与三郎の後を追って、木更津の海に身を投げたはずの“横櫛のお富”。この男女が江戸の玄冶店で運命の再会を果たしたときの、二人の思いやいかに。いやさあ、お富、久しぶりだなあ。この後、与三郎はお富に導かれて悪の道に入っていくという…。

すみれさん、妻の了見の素晴らしさ。夫・山内一豊の武士道を立てるために、嫁入りしてきたときの“いざというときの金”50両を、手水鉢を割って、夫に渡す妻の思いはいかばかりか。三下り半を突き付けた一豊よりも一枚も二枚も上手の妻である。35両で名馬を買った一豊は戦乱の世で獅子奮迅の活躍をするのだから、妻の見る目は間違っていなかった。

夜は半蔵門に移動して、国立名人会に行きました。トリの柳家喬太郎師匠が新型コロナ陽性反応が出たために、急遽、柳家さん喬師匠が代バネを勤めた。

「松竹梅」柳家小きち/「しの字嫌い」三遊亭萬橘/「三人無筆」柳家喬之助/「愛宕山」古今亭菊之丞/中入り/「お富与三郎」一龍斎貞寿/紙切り 林家二楽・林家八楽/「寝床」柳家さん喬

萬橘師匠、従来の古典に新しい風。頑固で意地っ張りの下男を旦那がなんとかしてギャフンと言わせてやろうと画策する噺だが、色々と工夫を施している。金勘定をさせるメインの部分はザックリとカットして、「噺家が仕事がなくて収入がない」「好物は塩饅頭」など、何とかして「し」の字を言わせようとする旦那の必死さに対し、冷静な下男との対照が愉しい。

喬之助師匠は珍しい噺。というか、無筆の噺を挙げなさいと言われれば、「手紙無筆」や「平林」の次くらいに、この「三人無筆」が思い浮かぶが、意外と高座でお目にかかることが少ない。二人の無筆がお互いに「体で仕事をする」ので、帳付けは相手に任せようとするのが、とても可笑しくて好きだ。

菊之丞師匠、土器(かわらけ)投げ。僕のこれまでのイメージは、的は輪っかのようなもので、その真ん中に土器を通す遊びと思っていた。これまでの噺家さんの噺から、そうイメージしていた。だが、菊之丞師匠は「(土器を)的に当てる」という表現をされていた。それで、調べてみると、実際は的に土器を当てて、粉々にすることで邪気を払う遊びらしい。リアルという意味では、菊之丞師匠が正解だった。

貞寿先生、花便り寄席に同じ。こちらの会はネタ出しをしていたので、昼の花便り寄席が予行演習だったのかしら。でも、同じ内容だが、1日に2度聴いても飽きることがなく、興味深く聴けた。それは「お富与三郎」という読み物の魅力もあるだろうが、貞寿先生の芸の力もあると思う。

二楽師匠が出る前に、一旦緞帳が下がり、もう一度上がると、座布団が2枚。二楽師匠が出てきて、「きょうは弟子も一緒出てもいいですか?」と言って、客席から拍手があったので、弟子であり、息子である八楽さんが出てきた。鋏試しの「花嫁姿」から、注文の「大谷翔平」「喬太郎師匠」も含め、八楽さんがメインで切り、二楽師匠は「それに付随するもの」を切るという演出。「それに付随するもの」とは、「花嫁を見るお母さん」「大谷翔平を見るお母さん」「喬太郎師匠を見るお母さん」。

最後に「干支で切ってほしいものはありますか?」と客席に訊き、「寅」「巳」と声が挙がるも、八楽さんが「猫ということで」と押し切り、二楽師匠が「ドラえもん」、八楽さんが「ドラミちゃん」を切る。これは最初から台本があった演出のようだ。この国立名人会のチラシには二楽師匠の名前しかなかったので、八楽さん中心の高座になったことに、ちょっと驚いた。

さん喬師匠、旦那の酷い声の義太夫はすごい。動物園で旦那が義太夫を語っていると思ったら、カバの鳴き声だったというのは笑える。皆が仮病や理由を付けて義太夫の会を欠席することに腹を立て、拗ねて寝込んでしまった旦那だったが、店立てと暇を出すという事の重大さに番頭が動く。「そうはおっしゃいましても」と言う日本語があるだろう、と本当は旦那が語りたいという気持ちに折れた番頭の「芸惜しみですか?」という殺し文句に旦那が上機嫌になるところ、とても楽しい。