三遊亭兼好 人形町噺し問屋、そして鈴々舎馬るこ勉強会

「三遊亭兼好 人形町噺し問屋」に行きました。きょうは「鮫講釈」と「庖丁」の二席。ゲストのサブリミットという男女二人組がすごかった。はじめ、傘の上で鞠を廻したり、独楽を廻したりして、太神楽なのかなあと思ったら、次に独楽を刀の先で廻したり、扇子の上で廻したり、風車をやったり、江戸曲独楽なのかなあと思ったら、二人で新体操というか、アクロバット的な身体能力を発揮する雑技団のようなパフォーマンスを見せて、兎に角圧倒された。調べてみたら、「サーカスパフォーマンス」というジャンルだそうで、男性はサーカス出身のガッツさん、女性は元体操選手のヨーコさん。美しくパワフルなハンドトゥハンドを武器に世界20ヶ国で公演、とホームページのプロフィール紹介に書いてあった。

兼好師匠の「庖丁」。久次に女房を口説いてくれと頼まれた寅さんの憎めないキャラクターがとても良い。久次に言われたままに、おあきさんを訪ね、接近するが、当然おあきは気が強いので、相手にされないし、久次の思惑通りになびくわけがない。でも、酒の勢いに任せて愚直に任務を遂行しようとする寅さんがとっても可愛いのだ。

酒が飲みたいと言っても出してくれないから、自分が土産に持ってきた一升瓶から湯呑に注いで飲む。湯呑を平然と火鉢の引き出しから取り出すのに、ビックリするおあきさんが可笑しい。続いて同様に、鼠いらずの上から二段目から佃煮を出し、上げ板の三枚目の糠床からお新香を取り出して庖丁で刻む謎の侵入者におあきさんが目をパチクリする様子が目に見えるようだ。

寅さんがおあきさんに酒を勧めても、「頂きませんの!」と向こうを向いちゃうし、それでも唄を歌うので三味線を弾いてくれないかと頼んでもこれも断られちゃう。でも、寅さんはめげずに、口三味線で♬山もおぼろに薄化粧~娘盛りはよい桜花~と唄いながら、おあきの身体に触れる、当然叩かれる、でもめげずに唄い続けて触る、もっと強く顔を叩かれる、それでもめげない、最後は頭を5連発で殴られる…。

キレたおあきさんは「冗談じゃない!女を口説く顔か!アンコウみたいな顔して!」。とうとう、いくらお人好しの寅さんも自分のやっていることに嫌気が差した。「やりたくて、やっているわけじゃない!亭主に頼まれたんだ!」と、久次が他の若い女とくっつくために、おあきを厄介払いしようと企んだ狂言を全部ばらしてしまう。それが、おあきの心に逆に響いたのだろう。

「悔しい!」と言って、寅さんに何と抱きつく。寅さんが「涙が枯れるまで泣きな。生涯尽くしてくれる男かどうか、見抜かなきゃ。これからでもやり直しがきくよ」と優しく言うと、おあきはこれまで煙たがっていた寅さんに対して、立場を逆転させる。「一緒になってくれないかい」。寅さんも「生涯大事にするよ」。

おあきが「目が覚めた。亭主はこっちにおいで」と自分の上座に寅さんを座らせ、夫婦固めの盃を交わすのだ。嘘から出た誠とはこのことだろう。そこへ何も知らずにやってきた九次はビックリしてしまうが、自業自得というものだろう。寅さんが「みんな、しゃべっちゃった。ごめんね」というのが可愛い。とても痛快な、兼好師匠らしい「庖丁」だった。

帰宅して、配信で「まるらくご爆裂ドーン!~鈴々舎馬るこ勉強会」を観ました。「ん廻し」「鴻池の犬」「馬のす」の三席。

ネタ卸しの「馬のす」は、平成生まれの28歳のデザイナーが自然に囲まれた離島に移住して、趣味の釣りを楽しむという設定だ。釣り糸の代わりに馬の尻尾を抜いたこの男性に対し、島で漁師をしている熊さんがやってきて、「お前はとんでもないことをしたな!」と言って、純米大吟醸と枝豆をご馳走になりながら、なぜ馬の尻尾を抜いてはいけないかを喋るのは従来の古典落語に同じ。

なかなか理由を言わないで、雑談で引っ張る部分が、馬るこ師匠らしい内容で面白い。平成生まれの28歳の奥さんとの馴れ初め、「同級生」と言っているのに、「そういうマッチングアプリがあるの?」と執拗だったり、太平洋でフグを捕獲してわざわざ下関の港まで持って行くと値が格段に違って儲かるという話題から、山口県と「維新」(これがマニアックなプロレスネタ)との関係について喋ったり、終いには落語界の、とてもここには書けない裏話的なことを「落語に詳しい人から聞いた」と言って延々と喋ったり。

こういうところが馬るこ師匠は面白いんだよなあ、寄席ではこのうちのどれだけ取り入れることができるんだろうなあ、と思いながら、また来月の「まるらくご」の配信を楽しみにする僕であった。

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