小ゑん落語ハンダ付け
池袋演芸場で「小ゑん落語ハンダ付け 小ゑん・彦いち二人会」を観ました。どんぶらこっこ共同開催ということで、柳家小ゑん師匠と林家彦いち師匠が新作を2席ずつ、開口一番の貫いちさんも、二ツ目枠として出演したやま彦さんも新作と、新作尽くしのたっぷりの3時間だった。
「ZIN―仁―」春風亭貫いち/オープニングトーク 小ゑん×彦いち/「ねこちぐら」林家やま彦/「舞番号」林家彦いち/「いぼめい」柳家小ゑん/中入り/「夢のまつり」林家彦いち/「トニノリ」柳家小ゑん
彦いち師匠の一席目「舞番号」は、マイナンバー制度が定着した近未来の噺。何もかもが紐づけされた世の中に反抗し、もみじ亭どんぐりは寄席芸人としての生き様を見せてやる!と、マイナンバーを削除してしまうが…。クレジットカードは使えないし、ライフラインは止められ、SNSには追悼コメントが寄せられている。寄席に行って挨拶しても無視され、自分の出番には代演が立てられていて、存在そのものが消滅しているという…。自分の行動や情報がすべて監視され管理されている社会の恐怖みたいなものを感じた。
二席目は「夢のまつり」。3月のSWAクリエイティブツアーでネタ卸しした作品だが、練り直しを何度かしているのであろう、さらにわかりやすく、面白い高座に仕上がっていた。休日にはゆっくりと寝て、いつも途中で終わってしまう夢の続きを見てみたい…。赤穂浪士として討ち入りに行く、そこで陣太鼓が鳴る。だが、その音がスマホの目覚まし機能の音となり、目が覚めてしまう。また寝直すが、スマホのSiri機能を使って、泉岳寺までの最短ルートを調べたり、赤穂浪士の口コミを検索したり…。現実と夢を行き来する様が面白い。ミッションインポッシブルのテーマに乗って、アクションで「時そば」や「芝浜」を表現して金を拵えるところは熱烈な落語ファンが多い客席を唸らせた。
小ゑん師匠の一席目は「いぼめい」。去年の落語協会新作台本募集の優秀作品だ。僕は2月に鈴々舎馬るこ師匠の高座を配信で観たが、噺家によって演出が違って、とても興味深かった。入社試験面接に訪れた男が強烈な訛りで、本人によれば父親が転勤族で全国各地を渡り歩いてきたので、色々な方言が混ざってしまったとかで、何を喋っているのか皆目見当がつかない。それでも、面接官の上司と部下は懸命に理解しようするが…。実はこの男、有名なユーチューバーで、「激しい訛りで面接に行くとどのような対応をするか」で会社のランク付けをしていたという…。この創作の発想のセンスが実に現代にマッチしていて良いし、小ゑん師匠もその「激しい訛り」を熱演していて爆笑だった。
二席目は「トニノリ」。お得意の鉄道落語だ。山手線が103系という昔ながらの車輛で、そこにノスタルジーを感じる。戸袋窓が付いている車輛。毎日、目黒から池袋まで通勤しているタカハシさんが、その戸袋窓に挟まった磯の香りがプンプンする海苔が気になってしょうがない。とうとう有給休暇を取得して、その挟まった海苔を取り出そうと、奮戦するのだが…。山手線を15周もしてしまい、終いには蒲田止まりとなって、駅員さんに頼んで、その海苔を取り出してもらうという。自宅に戻って、海苔を火で炙り、炊き立てご飯の上に醤油をつけた焼き海苔を載せて食べるときの喜びたるや!なんだか、こっちまでお腹が鳴ってきた。