通し狂言「絵本合法衢」、そして渋谷らくご 月刊太福マガジン
明治座で壽祝桜四月大歌舞伎夜の部を観ました。四世鶴屋南北作「絵本合法衢」五幕である。立場の太平次。多賀水門口の場より閻魔堂前敵討の場まで。大名多賀家の乗っ取りを企む左枝大学之助とその手下太平次という冷酷な二人の悪人を主人公に据えた悪の魅力を存分に描いた仇討狂言だ。松本幸四郎が大学之助と太平次の二役を演じた。
多賀家安泰を願うグループと乗っ取りを狙うグループの二組を登場順に並べてみた。
安泰願う組
高橋瀬左衛門、田代屋与兵衛実は高橋孫三郎、与兵衛許婚お亀実は左五右衛門娘、左五右衛門息子里松、左五右衛門、高橋弥十郎のち合法、左五右衛門女房おわた、田代屋後家おりよ、山伏升法印、高橋家家来孫七、孫七女房お米実はお亀妹、太平次女房お道、弥十郎女房皐月
乗っ取り組
左枝大学之助、関口多九郎、坂本権平、松浦玄蕃、守山軍蔵、乳人柵、妾お弓、妾お須磨、田代屋番頭伝三、うんざりお松実はおわた妹、太平次、島本団平、雲助八八、雲助三婦六
この中に「実は」というのが沢山あって、二組の単純な対立構造ではなくて、味方を残忍にも殺してしまうこともあったり、お道は太平次女房でありながら与兵衛を助けて身替りになったり、田代屋の伝三はお亀に横恋慕するあまり乗っ取り組に加担していたり、と人物相関図も複雑にできている。だが、それが南北特有の面白さだったりする。
ちなみに、大学之助に殺されたのは、順に権平、柵、お弓、お須磨、里松、瀬左衛門、軍蔵、お亀、与兵衛、太平次。太平次に殺されたのは、おりよ、お松、お道、孫七、お米。太平次が大学之助のために悪事を働きながら、最終的に大学之助に殺されてしまうのも凄い。
自らの大望のために幼児をも手に掛ける左枝大学之助、強欲な無頼漢の太平次という二人の悪人を、松本幸四郎が巧みに演じ分ける面白さがあった。また、女ながらに盗みや殺人などの悪事を働くうんざりお松と弥十郎女房で武家出身らしい気丈なお絹の二役を片岡孝太郎が好演。中村芝翫の高橋瀬左衛門、中村又五郎の弥十郎、中村歌昇の与兵衛の三兄弟もそれぞれに良い味を出していた。
仇討に至る過程で善人方(安泰願う組)が次々と命を落としていくのも、言葉は悪いが、爽快感すら感じて、これが南北の描く「悪の華」なのかと思った。
帰宅して、配信で「渋谷らくご 月刊太福マガジン」を観ました。2018年から1年ほど玉川太福先生が身辺雑記を中心に唸るという1時間の枠が渋谷らくごであって、大変好評だったが、それを久しぶりにやろうということで、前半30分は林家きく麿師匠の高座、後半30分は太福先生の高座というスタイルで構成された番組だった。
「ベタ刑事」林家きく麿/「祐子の笑点」玉川太福・伊丹明
きく麿師匠は、新入りの刑事と笑いに五月蠅いベテラン刑事がコンビを組んで、張り込みをするという噺。シュールな笑いとは何か、二人のやりとりをしているのが愉しい。松竹芸能のよゐこみたいな笑いですよと言う新入りに対し、欽ちゃんの「良い子、悪い子、普通の子」の山口良一を想像し、噂の東京マガジンか?と反応するベテラン刑事が愉しい。張っていた容疑者に「落語の『あたま山』みたいな笑い」と説明されて、すごく合点がいくのも面白い。
太福先生は、100歳の誕生日を迎えて、なお現役で曲師を勤める玉川祐子師匠と一緒に日本テレビ「笑点」に出演して「祐子のスマホ」を披露することになった顛末記。出演が決まって、自宅で稽古して、いざ収録本番を迎えるまでの、祐子師匠のお茶目で元気な様子が目に浮かぶようで、とても微笑ましく思った。