日本浪曲協会四月定席(玉川太福 主任)、そして鈴本四月上席夜の部(春風亭柳枝 主任)

木馬亭で日本浪曲協会四月定席二日目を観ました。玉川太福先生が初主任というおめでたい興行だ。年功序列がきっちりしている浪曲協会定席の顔付けで、今年入門16年目となる太福先生が、先月の奈々福先生に続いての快挙だ。浅草芸能大賞新人賞を獲った時に記念興行的にトリを取ったことはあったが、通常興行では初めてと太福先生が嬉しそうにおっしゃっていた。出演者は全員が太福先生より後輩の若手実力派浪曲師で、寄席としても内容的に満足感溢れる顔付けだった。今後、奈々福先生と太福先生は頻繁に主任を勤めることになるだろうし、こうした若手の座組を積極的におこなうことが、集客面においても、また人材育成面においても欠かせないと思う。

「不破数右衛門の芝居見物」玉川わ太・玉川みね子/「双葉山」東家三可子・旭ちぐさ/「貝賀弥左衛門」富士綾那・沢村博喜/「ベートーヴェン一代記 歓喜の歌」港家小ゆき・沢村理緒/中入り/「水戸黄門漫遊記 散財競争」国本はる乃・沢村道世/「寛永宮本武蔵伝 吉岡治太夫」神田松麻呂/「あたま山」東家孝太郎・沢村まみ/「紺屋高尾」玉川太福・玉川みね子

わ太さん、啖呵のところで即興のクスグリを頻繁に入れてきて、高座に余裕が出てきたことが窺える。三可子さん、得意中の得意のネタ。他の演者もそうだが、自分の自信作で客席を盛り上げ、トリにつなげようという姿勢がとても良い。

綾那さん、赤穂義士伝がとても良い。3両をくすねたという濡れ衣を被って、身投げしようとした武蔵屋長兵衛の娘。それを救った恩人を親子で血眼で探すと、討ち入り本懐を遂げて、泉岳寺に向かう四十七士の中に、その恩人を発見!というドラマチックな台本に感動した。

小ゆきさん、クラシカ浪曲。これも何度も聴いている自作の十八番だが、きょうはことのほか良かった。交響曲に合唱を組み入れる決断を最終的にしたベートーヴェンの指揮によるオーケストラの演奏、小ゆきさんの歌唱力も素晴らしく、観客のスタンディングオベーションの映像が脳裏に浮かんだ。

はる乃さん、圧倒的な力強さ、そしてユーモア。相手が水戸光圀と知らずに、芸者遊びをどれだけ派手に出来るかを競う森田屋清蔵。そして、細井安太郎の親旦那と偽った光圀も意地になって、権力を駆使して町奉行に南の芸者総揚げを阻止するのも面白い。清蔵をギャフン!と言わせたところで、本物の細井安太郎登場に慌てる光圀公というのも笑った。

孝太郎さん、稲田和浩先生脚本。落語の「あたま山」を“けちんぼう”というところにスポットを当て、噺を大きく膨らませている台本、あっぱれ。そして、主人公が自分の頭の上の池に身投げするところまでは一緒だが、釣り人たちに助けられ、命を救われるというハッピーエンドにしたのも、とても良いと思った。

太福先生、前半は爆笑編、後半はしんみりと。これは亡き国本武春先生から貰ったネタだそう。久蔵が夢にまで見た花魁道中の主である高尾太夫が目の前にいるときの心境を節にのせて描写するのが良い。身体ガタガタ、胸はドキドキ、手足ブルブル、顔ポッポ、ヨロヨロと座り込み、上目遣いに高尾を見た…。

そして、「お裏はいつ頃?」と訊かれ、正直に「三年経ったら」と答え、「でも三年後にはどこかの大名か、大尽に身請けされているでしょうね」と言って、「きょうが最後でしょう。次はない。だけど、同じ江戸の空、バッタリ会ったら、久はん、元気?と聞いてください」と頼む久蔵の健気さがとても良い。

遊女は客に惚れたといい 客も来もせず又来るという 嘘と嘘との色里で 恥もかまわず身分まで よう打ち明けてくんなました 金のある人わしゃ嫌い あなたのような正直な人を捨て置いて 他に男を持ったなら 女冥利に尽きまする 賤しい稼業はしていても わしもやっぱり人の子じゃ 情けに違いがあるものか 義理という字は墨で書く

夜は鈴本演芸場で四月上席二日目夜の部に行きました。春風亭柳枝師匠が去年の末廣亭に続き、二度目の主任興行である。鈴本演芸場は暫く月曜日を原則定休日にしていたが、コロナ禍がほぼ解消されたことを受けて、4月から定休日を廃止、今席から10日間興行となった。

「饅頭怖い」三遊亭二之吉/「たらちね」春風一刀/奇術 マギー隆司/「ふぐ鍋」古今亭菊之丞/「のめる」春風亭一蔵/漫才 すず風にゃん子・金魚/「即興詩人」柳家小ゑん/「祇園祭」春風亭正朝/中入り/粋曲 柳家小春/「紙入れ」古今亭文菊/漫才 風藤松原/「寝床」春風亭柳枝

一刀さん、真剣にやります。これじゃあ、お経だよ!オチ。マギー先生、念写!「写ルンです」はまだ売っているのか。菊之丞師匠、避難訓練寄席体験。座布団も着物も紫色だった。

一蔵師匠、趣味はダイエット、特技はリバウンド。「で?」と、作戦をなかなか理解できない熊さん、可笑しい。「誰に教わった?」「藤井聡太」。にゃん金先生、復活?アニマルエクササイズ。身体が柔らかい金魚先生。仕事ですから!

小ゑん師匠、圓丈作品。取手から関東鉄道常総線、水海道駅からバスに乗り継ぎ、つくばからっ風ニュータウンへ。念願のマイホームを建てた夫婦が作る詩。台所の流しの三角コーナーを読んだ詩とか。正朝師匠、日本三大祭りは言える?京都の上品と江戸の威勢の良さの対決をユーモラスに。

小春師匠、初めまして。夜桜、さのさで梅干し、淡海節、とっちりとん、唐傘。文菊師匠、いやらしいお坊さん(本人談)。濡れ場が全くないが、少しは色気が欲しい。風藤松原先生、ファミレス店員と客のコントがシュールで良い。

柳枝師匠、愉快に。貧乏くじを引いた繁蔵の「自分か…」が可笑しい。18年前の髄膜炎はもう無効。因果と丈夫と言って怒られ、国に年老いたおふくろが…もしものことがあったら…。「わかりました、私一人が犠牲になればいいんでしょう。かあさん、ごめん」。

番頭の説得も可笑しい。民衆の声が聞こえませんか?肩を組んで「ギーダーユー!」。「皆さん、お待ちかね」「語りません!」に、「芸惜しみですか?」の一言でコロリと相好を崩す旦那。決め台詞だね!

石田の婆ちゃんのエピソード。耳が遠いはずが、なぜか聞こえちゃった。身体中に義太夫が当たった痣ができて、発熱したら、「ギダ熱です」の診断。婆ちゃんはあの後、杓文字を持ってウクライナへ行ったらしい!

皆、獣のような、断末魔のような、酷い声が耳に入らないように、藤村の羊羹を耳栓にしているのも愉しかった。