柳家喬太郎の会、そして柳家さん喬一門会

池袋演芸場で柳家喬太郎の会を観ました。平日昼間の開催、それも年度末の繁忙期だが、池袋演芸場およそ100席の前売りチケットは完売。「当日券は立ち見になります」とテケツの窓口に貼り紙がしてあった。喬太郎師匠では数少ない都内の独演会とあって、客席は熱気に溢れていた。

「千早ふる」入船亭辰ぢろ/「焼そば」~「オトミ酸」柳家喬太郎/中入り/「駆け込み寺」金原亭馬久/「ウルトラの郷」柳家喬太郎

前座の辰ぢろさんが「千早ふる」を演って、高座を返し、メクリが柳家喬太郎になって、出囃子がまかしょではなく、「お富さん」。そう、春日八郎のヒット曲だ。喬太郎ファンなら、このパターンは「オトミ酸」を演るんだ!と期待が膨らむ。「お富さん」の歌のワケを「千早ふる」同様に、隠居の無茶苦茶な解釈で笑わせてくれる新作落語だが、そう滅多に掛かるネタではない。僕は2017年7月、代官山にあるライブハウス「晴れたら空に豆まいて」で開催された「Kと三K」で聴いて以来だ。

池袋から西武百貨店が消えるという衝撃的なニュースをきっかけに、人気テレビ番組「出没!アドマチック天国」さながら、「その町には欠かせないシンボル的な店がある」という論を具体的に挙げながら、喬太郎師匠ならではの愉しいマクラが30分近く続いた後、新作落語「焼そば」に入った。

2021年度の落語協会新作台本コンクールで入選した、荒井久美子さんの作品で、三月下席の新作台本まつりの二日目に喬太郎師匠が主任で掛けたのだが、僕は生憎都合が悪く、聴けなかった。それが、きょう聴けたので嬉しかった。

夫が頭痛がすると言って、妻と一緒に病院に行って、ⅯRIの検査をしたら、医師が言うに、「左脳が焼そばになっています」。それも、生麺ではなく、日清の袋麺!それで、ヤがつく言葉は皆「焼そば」になっちゃう。さらに検査を進めると、「片肺が蒟蒻です」。婚約指輪が蒟蒻指輪になっちゃう!ものすごいシュールな噺に大爆笑した。

で、高座を降りずに、期待をしていた「オトミ酸」へ!行きな黒兵衛、神輿の待つに、仇名すガーターの荒い神、死んだはずだよオトミ酸、生きていたとは、お釈迦様でも、知らぬホットケのオトミ酸、エッサオー、源やだなぁ。これだけでは何のことか、わからないでしょう。それはこの噺に出会ったときのお楽しみということで。「千早ふる」顔負けの、強引なこじつけが最高に面白いのだ!

「ウルトラの郷」は、先日亡くなった団時朗さん追悼の思いをこめたのだろう。「帰ってきたウルトラマン」の主人公、郷秀樹を演じた団さんは享年74。早すぎる。同級生の仇名を全てウルトラマンに出てくるキャラクターにしていたクラスの同窓会は何だかとっても楽しそうだ。女の子までも巻き込んでいるのが、とってもいい。そして、担任の先生はウルトラマンという…。何より、喬太郎師匠が本当に嬉しそうに演じているから、こちらも幸せな気持ちになれる。

夜は鈴本演芸場で柳家さん喬一門会を観ました。さん喬一門が結束して、バカバカしい余興を一生懸命やっている姿を見ていると、「本当に芸人さんだなあ。お客様に笑っていただくために全力を尽くしているのだなあ」と尊敬してしまう。

「金明竹」柳家小きち/「センターマイク」柳家小志ん/「堀の内」柳家喬之助/バイオリン漫談 柳家小傳次/「馬のす」柳亭左龍/新舞踊 柳家さん喬/「えーっとここは」柳家喬太郎/中入り/漫才 柳亭左龍・柳家喬之助/「四人癖」柳家小傳次/マジック ダーク広和/「百川」柳家さん喬

小傳次師匠がプログラム上、去年までは「バイオリン演奏」となっていたのに、今回は「バイオリン漫談」になっている!と自虐的に笑いを取る。ヤマハ音楽教室に通って11年だそうだが、とてもそうとは思えない(失礼!)音程の危ない演奏が続き、笑いを誘った。落語が本業だから、バイオリンでは「笑われる」でいいのだ。

一応、プレイリストを列記します。徹子の部屋のテーマ、機動戦士ガンダム、北の国から、北斗の拳、呼び込みくん、新世紀エヴァンゲリオン、ドラゴンクエスト。以上、7曲。

さん喬師匠の新舞踊も爆笑モノだった。日本舞踊の藤間流名取だから、踊りはしっかりしている。でも、そこはあえて崩して、カツラを被って女装し、「矢切の渡し」を舞う。大衆演劇風演出で、予め客席におひねりを放る人たちを仕込んでおいたり、途中に小平太師匠が船頭姿で舞台の上手から下手に見切れたり、楽しいったらありゃしない。黒子のやなぎさんの存在も良い味を出していた。

その後に高座に上がった喬太郎師匠が「うちの一門はいったい、どこへいくのでしょう」「入門したときは、あんなじゃなかった」と言って、さらに笑いを取るのが一門の仲の良さを物語る。

左龍師匠と喬之助師匠による漫才も良かった。すず風にゃん子・金魚先生を模したコスチュームで登場。「龍子・喬子でーす」。なんでも、二人が着ている衣裳は手縫いらしい。すごい意気込みを感じる。で、金魚先生の役回りの左龍師匠が、これもお約束で客席からバナナが提供され、皮を剥いて頬張る!

マジックのダーク先生のときも、最後にトランプが舞台の上に物凄い量散らばって、それをドリフのコントのエンドテーマに乗せて、さん喬一門が皆で慌ててトランプを拾い集めにくるという茶番も。そして、どさくさに紛れて、小平太師匠が「矢切の渡し」のとき同様に船頭姿で舞台の上手から下手に見切れるという…。

兎に角、芸人根性たっぷりの、学芸会的なお楽しみ満載の、柳家さん喬一門会だった。いや、喬太郎師匠のSWAで卸したての「えーっとここは」も、さん喬師匠のトリの高座「百川」も勿論良かったですよ!