SWAクリエイティブツアー

SWAクリエイティブツアーに行きました。還暦を過ぎても、または還暦が近くなっても、新作落語の創作に命懸けになって取り組む姿に感動する。噺家としての魂とでもいうのだろうか、高座に向かう飽くなき探求心とでもいうのだろうか、オジサンたちはまだまだ若い者には負けないよ!という胸に秘めた思いに感嘆するばかりである。

膝を悪くした喬太郎師匠のために、昇太師匠が手作りで釈台を拵えてあげたというエピソードにも一緒に闘う戦友への熱い友情を感じる。また、きょうは全5公演の最終公演だったが、連日大きな声を出し過ぎて、白鳥師匠が声を枯らしていた。医師の言葉を借りれば、声帯から出血しているという。それでも高座に上がる白鳥師匠の根性は尊敬に値する。くれぐれもご自愛ください。

「えーっとここは」柳家喬太郎/「戦国老人ホーム」春風亭昇太/中入り/「夢のまつり」林家彦いち/「彼女は幽霊」三遊亭白鳥

喬太郎師匠の高座には共感がある。新しい店ができたのを見ると、「これができる前は何があったっけ?」と考えるが、なかなか思い出せないで、もやもやしてしまうことがよくあるけど、そんな思いを出発点にした新作。

業務の引き継ぎで、部長が部下を連れて営業地域を回っていると、新しいコーヒーショップが開店している。「ここ、前はなんでしたっけ?」。思い出せず、お店に入って、コーヒーを頼む。駄菓子屋?オムライス屋?蕎麦屋?二人の思い描く提供される品には食い違いがあって…。これは世代の違いなのか、それとも個人的な趣味嗜好の違いなのか。コーヒーショップの店長は、二人各々に思い描いた品をサービスとして提供…、いったいあの店長は何者だったのか?ファンタジーでもあり、ノスタルジーでもある喬太郎師匠ぽい噺に仕上がった。

昇太師匠は趣味というか、いまや専門分野になっている戦国時代のテーストを存分に取り入れた新作になっている。老人ホームの慰問落語会で実際に体験した“風船合戦”についてマクラで振って、それが本編で生きている。

老人ホームの共用スペースにある、4Kの大型テレビのチャンネル権を巡って、派閥を争うお年寄りたちが主人公だ。大河ドラマ「どうする家康」が観たい毛利さんと、MXテレビのショッピング番組が観たい武田さん。この二人にはそれぞれの味方がいて、争いとなる。小早川、木下、織田、今川…、戦国武将たちの名前が付いたお年寄りたちが相馬野馬追の神旗争奪戦の如く、風船合戦が繰り広げられ…。昇太師匠らしい、おバカな人たちの可愛らしさが描かれていた。

彦いち師匠はサラリーマンのお父さんの気持ちになって創作しているなあと思った。平日は朝早く会社に行き、夜遅く帰宅して、休日は家族サービスに追われる。たまにはゆっくりと寝て、いつも途中で終わってしまう夢の続きを見たいという願望、わかるわかる。

お父さんは夢の中で赤穂浪士になっている。いざ、討ち入りという段になって、陣太鼓が鳴っていると思ったら、いつまでも鳴りやまない。スマホのアラーム機能が朝5時に設定されていて、しかもスヌーズだった!もう一度寝ると、泉岳寺に行くはずが、もう吉良邸には誰もいなくて…。その後も何度も夢に入るが、走れメロスの主人公メロスになっていて、親友のセリヌンティウスとともにいたり、無銭飲食の濡れ衣を晴らすために、「時そば」や「芝浜」で稼いだり。何とも不思議な彦いちワールドを楽しんだ。

白鳥師匠は馬石師匠の「安兵衛狐」を聴いて、この新作を思いついたそうだ。誰も住まない事故物件のアパートは家賃が1万2000円。そこに住むことにしたタカシに巻き起こる奇想天外な物語が愉しい。

“わけあり物件”に案の定現れたのは、24歳のシノブという女性の幽霊。これは逆にラッキーではないか、とタカシは考え、彼女にするのだが…。一緒にご飯を食べに入ったアパートの裏の満腹食堂で、大好物の赤いウインナー炒めを出されて、シノブは自分が幽霊であることも忘れるほど、狂喜乱舞するが…。食堂店主や常連客にも幽霊であることがばれてしまって…。白鳥師匠らしい荒唐無稽、奇想天外なストーリー展開が愉しかった。