落語協会 新作台本まつり、そして今日日新新

池袋演芸場で新作台本まつり九日目を観ました。新作と言っても、様々だ。現代を舞台にしたもの、江戸を舞台にしたもの。自分で創作したもの、他の噺家が作ったもの、落語作家が作ったもの。広い意味で言えば、「癇癪」は益田太郎冠者の作品だし、「猫と金魚」は田河水泡の作品だが、古典に分類されることもあるが、新作と呼んだ方が良い場合もある。「加賀の千代」だって、昭和20年代に上方の橘ノ圓都が創作した作品だ。そういう幅の広さを楽しむというのが、今回の新作台本まつりの醍醐味かもしれない。

「饅頭怖い」古今亭松ぼっくり/「花魁の野望」三遊亭わん丈/「冷蔵庫の光」弁財亭和泉/「長屋の算術」桂文雀/紙切り 林家八楽/「一文笛」林家正雀/「フリマ道具や」三遊亭彩大/中入り/「川路のキンゴロ」三遊亭歌実/「夫婦やもり」柳家小きん/奇術 伊藤夢葉/「コブシーランド」柳家小せん

わん丈さん、痛快。大岡越前守と結婚した花魁が「私もお裁きしたい!」と言い出して…。人生経験豊富な彼女がサクサクと諸案件を裁いていくのが愉しい。和泉師匠、鋭い。冷蔵庫の中を夫に一つ一つ吟味されるのは、主婦にとって一番嫌かもしれない。何種類ものドレッシング、道の駅や空港で衝動買いした瓶詰め類、幾つあるか分からない保冷剤…。土井先生のレシピで手作りした万能タレには笑った!

文雀師匠、五代目柳亭燕路作品。メリヤスのシャツ2ダースという表現が戦前っぽくてイイネ。算術だけでなく、読み書きも含めての内容で、白酒師匠が時折演っている型とは違う。八楽さん、落ち着きが早くもある。ハサミ試しで文金高島田の花嫁。注文で、花粉症、ウサギ。正雀師匠、桂米朝作品。スリの達人、ヒデが可哀想な子どもに良かれと思ってやったことが、不幸を招くが…。サゲのギッチョは放送では使えないかも。

彩大師匠、「道具や」の現代版。与太郎をぶらぶらして働かないプータロウに置き換えて。解体屋のサイドビジネスがフリーマーケットという発想が可笑しい。今や使えないポケベルを敢えて懐かしく思って買う客とか、旧国鉄の切符用のハサミを求める鉄道オタクとか。歌実さん、元警察官。自分と同じ鹿児島出身で、日本警察の父と呼ばれた川路利良の人物伝かと思ったが、時間の関係か、ホンのさわりしか聴けず、残念。機会があったら、フルバージョンを聴きたい。

小きん師匠、創作人情噺。釘が刺さって動けない雄のヤモリに、雌のヤモリが餌を運ぶ。この姿に夫婦の道を教えられた女中が、夫がライ病を患ったために逃げ出したことを恥ずかしく思い、改心して夫の元に戻り、看病したという…。夢葉先生、鞭は空気を切り裂く音。師匠の一葉は昭和54年に、45歳で早逝。覚えています!

小せん師匠、美声を生かす。一昨日に同じ噺を聴いたが、今回の方が持ち時間が長いのでたっぷり!イツキーマウスとヒバリーマウスは恋人同士という設定。さだまさしは演歌かな?(笑)民宿北の宿では、セーター編み物体験。襟裳岬パニックでは、悲しみを暖炉で燃やす。北酒場トップ・オブ・ザ・シガーは、髪の長い女の人の煙草の先に火を点ける。与作・ザ・マウンテンは、ヘイヘイホーで木を伐り、トントンとンで機を織る。カァー!

夜は高円寺に移動して、「今日日新新~新作おとぎ六人衆~」に行きました。きょうは、三遊亭ふう丈さんと柳亭信楽さんの二人会。

信楽さんの一席目は「変身」。大学入学式当日の朝、起きたら、シゲルはバッハになってしまった!絶対音感があるわけでもなし、ピアノが弾けるわけでもなし、ただただ見た目がバッハ!そして、父親がベートーヴェンに!会社に行って、余興で南京玉すだれをやって、普段目立たない存在だったが、自己アピールするという…。ネガティブなシゲルに対し、ポジティブな父親の対照が面白い。

もう一席は「告白」。高校生のヤマオ君は、屋上にホンジョウさんを呼び出し、思い切って告白する。「僕は巨人が好きなんだ。読売巨人軍。ジャイアンツを」。返事を聞かせてと言うと、ホンジョウさんも「私も巨人が好きよ!」。そこから、「両思いね」となり、キスまでしてしまうという…。巨人が好きな理由は「親の影響かな」「なんだかんだ、目立っているから」というのも可笑しい。シュールな新作が得意の信楽さんらしい作品だ。

ふう丈さんの一席目は「焼肉」。おととい、池袋演芸場の新作台本まつりで聴いた。新入社員、先輩社員、課長、社長、会長と世代によって焼肉飲み会における価値観の相違があって愉しい。とりあえずビール、焼くのはタン塩から、上の者が奢る…。「焼肉あるある」が面白い。

二席目は「アメドの恋」。仕事に疲れた有名女優ハルノが、ふらっとタクシーに乗って湯河原へ行ってくれという。そして、ホテルの一室で一緒に飲まないか?と誘われる。ハルノの口からためらいがちに出る言葉から、しがないタクシー運転手ワタナベは恋の逃避行か?とドキドキするが…。それは全て役作りのためだった!

55歳にして独身、バツゼロのワタナベは完全に舞い上がってしまい、ハルノのためなら死ねると橋の上から川へ飛び込んでしまう。そんなストーリー展開に聴き手もハラハラドキドキしてしまう、サスペンスドラマのような構成。見事な手腕を味わった。