落語協会 新作台本まつり、そして立川談洲独演会

池袋演芸場で新作台本まつり七日目を観ました。毎年恒例の興行である。日替わりの主任は必ず落語協会新作台本コンクールの入賞作品を、過去の受賞作品も含めて演ることになっている。きょうは古今亭志ん雀師匠が去年の佳作に選ばれた「担任の空似」(横井正幸・作)を演じた。また、他の出演者も前座さんを除いて、必ず自作、他作を問わず新作落語を演る。そんな新作浸けの芝居だ。

ちなみに2022年度新作台本コンクールには、236作品の応募があり、最終選考に残った5作品が去年11月25日に発表を兼ねて、この池袋演芸場で披露された。最優秀賞は該当なし。優秀賞=青山知弘「いぼめい」、冨田龍一「三つの願い」、佳作=横山正幸「担任の空似」、今井洋之「ようこそ!感じ悪い村」、牧田英之「ふりふりふりん」。

「道具や」古今亭松ぼっくり/「肉の部位6」林家やま彦/「老人と孫」三遊亭歌扇/「ロボット長短」林家きく麿/紙切り 林家八楽/「コブシーランド」柳家小せん/「背なで老いてる唐獅子牡丹」柳家はん治/中入り/「焼肉」三遊亭ふう丈/「アニバーサリー」柳家花いち/奇術 伊藤夢葉/「担任の空似」古今亭松志ん雀

やま彦さん、正義のヒーローV6!戦闘モノみたいなポーズが可笑しい。冷蔵庫の中の肉の部位たちの会話を、登場人物が多くてわかりにくいからと、複数の扇子と手拭いを使って喋らせる演出が画期的だ。

歌扇師匠、思春期の18歳の息子と後期高齢者の81歳の舅の間に入った主婦の気持ちになると大変だ。きく麿師匠、ヨーデル♬寄席出る日。ロボットが風呂敷を畳んだり、ゴキブリ退治をしたり。その動きの緩慢なところが笑いのツボだ。

八楽さん、ハサミ試しは文金高島田のロボットバージョン。注文で三社祭、大谷翔平。小せん師匠、熱唱。演歌のテーマパークが愉しい。兄弟船クルーズ、津軽急行冬景色、襟裳岬パニックに与作・ザ・マウンテン!

はん治師匠、三枝(現・文枝)作品。高齢化社会に生きる反社会勢力をユーモラスに描く。義理と人情を保険に掛ける。ふう丈さん、世代間格差を焼肉屋での飲み会に表現。私たちが若い頃は…、今どきの若い者は…。とりあえずビールを注文せず、ブルーハワイを頼むとか。焼肉のスタートはカルビじゃなくて、タン塩だろうとか。

花いち師匠、全ての注文を扇子と手拭いで表現。ビールをグラスに注ぐ、枝豆を食べる、までは理解できるが、ウニやホタテやカニは想像を超えてきた!夢葉先生、ムチは趣味。あのインチキ臭い手品がユーモラスで良いね。

志ん雀師匠、作品の展開が良い。小学生の息子の三者面談に父親が行ったら、担任の先生が元彼女という偶然に遭遇。未だに独身という担任の言葉が全て恨み節たっぷりという可笑しさ。そこに都合が悪かったはずの母親が遅れて入ってきて、そこはもう修羅場という…。とてもよく出来た作品だと思った。

夜は上野広小路亭に移動して、立川談洲独演会に行きました。「卸問屋」、「蜜の味」~「むかつく」、「白ざつま」の四席。二席目と三席目はつなげて演じたので、正確には三席か。

「卸問屋」は何度聴いても面白い。女房に先立たれた旦那が息子に身代を譲るに当たって、女房の意見も聞きたいからと、番頭に「ばあさんを呼んでくれ」と頼む設定がユニークでいい。で、口寄せというか、霊媒師というか、イタコというか、そんな人を呼ぶのだが、40人も呼んじゃうのが面白い。全員が「ばあさん」が降りてきた口調だが、いざ、ばあさんに関するクイズをすると言うと、大半が辞退してしまうのが可笑しい。意地で残った3人に「ばあさんは誰だ!?」と100問が課され、まさに地獄の消耗戦に。皮肉たっぷりの傑作だ。

「蜜の味」でファーストキスの味についての男女の掛け合いが愉しい。和歌山の観音山フルーツガーデンのレモン、千疋屋のイチゴパフェ、本格中華のあんかけチャーハン、果てはおふくろの味の鯖味噌まで!「むかつく」のバーテンダーと女性客のやりとりも好戦的で笑える。新たな旅立ち、愛を注ぐ勇気、闇の中に灯る小さな光…。人生経験の蘊蓄を流暢に喋る女性客に対し、バーテンダーが提供する飲み物は全てウーロンハイという…。痺れを切らした女性客は「ジントニック!」と注文するが、それでも頑なにウーロンハイ(爆笑)

「白ざつま」は上方落語「菊江の仏壇」だ。若旦那がお花に惚れて、どうしても女房にしたいというので無理やり一緒になったのに、結婚後はまた遊び呆ける若旦那。お花はそのうち、病になり床に伏せてしまう。若旦那は看病もせず、芸者の菊江に入れあげる。何て自分勝手の酷い男なんだ!と思った。

だが、違った。お花は本当は他に心に決めていた男がいたという噂を聞いた若旦那は、その男に負けないように頑張ろうと思った。仕事を一生懸命やった。でも、出来た女性であるお花に叶わない。なんて自分は不甲斐ないんだと、そのギャップに若旦那は悩んだ。そして、自分が嫌になった。お花に離縁してもらおうと思った。それで、遊び呆けていた…。父親に打ち明けた。

ところが、それが違った。お花は他に心に決めた人などいなかった。お花は若旦那を慕っていた。頑張っている若旦那に心底、惚れていたというのだ。だが、もう遅い。お花は衰弱して死んでしまった。ああ、何と言う悲恋なんだろう。

最終盤、しんみりとさせて、良い人情噺で終わるのかと思わせておいて、仏壇に隠れていた菊江に「消えとうございます」と言わせて、滑稽で落とすサゲ。これが上方落語っぽいんですよね。今はこの通り演っていますと、談洲さんは頭を下げた後に言った。滑稽で落とさないで、しんみり終わらせた方が良いのかもしれないと。まだ先は長い。色々と悩みながら、ご自分の噺を拵えていけば良いと思う。